『潮風の下で』 レイチェル・カーソン

 

潮風の吹く下にいるのは、さまざまな生き物。
第一章は、クロハサミアジサシやミユビシギなど、海辺の鳥たちを中心にして一年間の生き物たちの姿を描く。
イリエガメの子が波打ち際でネズミに捕まり、そのネズミは、夢中で子ガメの薄い甲羅を齧っている間に、アオサギに一突きされる。
獲物を咥えたミサゴと、その獲物を横取りしようとするハクトウワシの激しい空中戦は、息を詰めて見守る。
人間(猟師)も登場するが、彼らも鳥や魚たちと同じ生き物として、平等に描写されて、影は薄い。


第二章は、卵から始まるサバの幼魚の旅。卵としてこの世(海)に登場した瞬間から、待ちうける大小の捕食者たちの口から逃れ続けることは、なんというとんでもない奇跡なのだろう、と、一匹のサバの子の旅をハラハラしながら見守る。


第三章の主人公はウナギ。シラスウナギとして、川で10年もの年月を過ごしたあと、何に導かれたのか、川を下り始める。海に至るまでの間に、海での長旅に備えて、外見も変わってくる。
謎に満ちたウナギの回帰の物語だ。


それぞれの章には、主人公(?)となる個体がいることはいるけれど、彼・彼女のまわりには、さまざまな生き物たちがそれぞれの懸命のドラマを繰り広げている。
その様子が、まるでドキュメント映画のように、描き出される。まるで、自分がその場にいて、息を詰めて見守っているように。
読んでいると肩入れしたくなる生き物もいるのだけれど……奇跡のようなその生も、惨い死も、後の生きものたちを生かすよすがになるのだ、と受け入れる。


自然描写の美しいこと。
ダイナミックで繊細で。刻々と移り変わっていく空の色、海の色、雨風の吹き降りの様子。匂いや温度。音。さまざまな光……
わたしは、ときには、手を伸ばせば彼らに触れるくらいの場所に置かれて、ときには、はるかな高みに飛翔して、海や陸を大きく眺める。
これがレイチェル・カーソンの第一作。美しい本だった。