『黒馬物語』 アンナ・シューウェル

黒馬物語 (光文社古典新訳文庫 K-Aシ 13-1) 作者:アンナ・シューウェル 光文社 Amazon 黒馬ブラック・ビューティーがこの物語の語り手であり、主人公だ。ブラック・ビューティーは、馬をこよなく愛する裕福な主人のもとに生まれ、馬の扱いに長けた馬丁や御者…

『ポアロとグリーンショアの阿呆宮』 アガサ・クリスティー

ポアロとグリーンショアの阿房宮 (ハヤカワ文庫 クリスティー文庫 103) 作者:アガサ クリスティー 早川書房 Amazon この中編小説は、長編『死者のあやまち』の原型なのだ。もともとは、クリスティーの地元の教会のチャリティのために執筆された。けれども、…

『死者のあやまち』 アガサ・クリスティー

死者のあやまち (ハヤカワ文庫 クリスティー文庫 27) 作者:アガサ クリスティー 早川書房 Amazon 運河に面した美しい田舎町ナスコールのお祭りの催し物として、ナス屋敷の当主とその友人たちは、広い敷地を活用した犯人捜しゲームを主宰する。1人の女性が絞…

『死を想う:われらも終には仏なり』 石牟礼道子;伊藤比呂美

死を想う: われらも終には仏なり (平凡社新書 371) 作者:石牟礼 道子,伊藤 比呂美 平凡社 Amazon 2007年、親の介護のため、熊本の実家とカリフォルニアの住まいを頻繁に往復していた伊藤比呂美さんと、当時79歳の石牟礼道子さんの対談である。(以下敬称略)…

『パフィン島の灯台守』 マイケル・モーパーゴ

パフィン島の灯台守 作者:マイケル・モーパーゴ 評論社 Amazon 大西洋ウェスタンアプローチ海域を航行していた四本マストのスクーナー船ペリカン号が、大嵐で座礁したとき、一部始終を見ていたパフィン島の灯台守ベンジャミン・ポルストウェイトは、ひとりで…

『口ひげを剃る男』 エマニュエル・カレール

口ひげを剃る男 (Modern&Classic) 作者:エマニュエル・カレール 河出書房新社 Amazon 口ひげも、十年以上大切にしてきたとあっては、もはや顔の一部。「僕」が、その口ひげを思い切ってそり落としてしまったのは、妻を驚かそうという、ちょっとした茶目っ気…

11月の読書

11月の読書メーター読んだ本の数:5読んだページ数:1265野鳥の図鑑―にわやこうえんの鳥からうみの鳥まで (福音館の科学シリーズ)の感想一ページ一ページがそのまま絵画なのだ。どのページにも丁寧な解説がついているけれど、それを読む前に、この絵を見るだ…

『野鳥の図鑑――にわやこうえんの鳥からうみの鳥まで』 藪内正幸

野鳥の図鑑―にわやこうえんの鳥からうみの鳥まで (福音館の科学シリーズ) 作者:藪内 正幸 株式会社 福音館書店 Amazon 晴れた秋の日、八ヶ岳南麓にある藪内正幸美術館を訪れた。『どうぶつのおかあさん』などの絵本や『冒険者たち』などの児童書の挿絵でおな…

『わんぱく時代』 佐藤春夫

わんぱく時代 (講談社文芸文庫 さE 7) 作者:佐藤 春夫 講談社 Amazon 新宮第一尋常小学校三年生に、隣町の小学校から、周囲から一目置かれるような暴れん坊が転校してきた。もとからいたガキ大将は、この転校生の存在がおもしろくない。ひとつの学校に二人の…

『アナグマの森へ』 アンソニー・マゴーワン

アナグマの森へ 作者:アンソニー・マゴーワン 徳間書店 Amazon 『荒野にヒバリをさがして』のケニーとニッキー兄弟の数年前の出来事を描いた物語。兄弟のお母さんが家出をしたあと、お父さんは一人で頑張ってきた。だけど、いまは、友人の犯罪に巻き込まれて…

『荒野にヒバリをさがして』 アンソニー・マゴーワン

荒野にヒバリをさがして (児童書) 作者:アンソニー・マゴ―ワン 徳間書店 Amazon ニッキーは、一つ上の兄ケニーと、老犬ティナと一緒に、復活祭のやすみに、ノース・ヨーク・ムーアズ国立公園に、ハイキングにでかける。春のヒバリを探すためだった。気晴らし…

『おべんとうの時間がきらいだった』 阿部直美

おべんとうの時間がきらいだった 作者:阿部 直美 岩波書店 Amazon 『おべんとうの時間』(阿部了/阿部直美)の二巻と四巻を持っている。阿部了さんによる手作り弁当と食べる人の写真と阿部直美さんのエッセイとで綴られた本で、ときどき、あちこちパラパラ…

10月の読書

10月の読書メーター読んだ本の数:3読んだページ数:733私立探検家学園4 地下迷宮のわすれもの (福音館創作童話シリーズ)の感想「探検家になるには、ふつうじゃない努力や、経験が必要で、それは、わかる。だれもが、その目標にむかってがんばってる。わた…

『私立探検家学園4 地下迷宮のわすれもの』 斉藤倫

私立探検家学園4 地下迷宮のわすれもの (福音館創作童話シリーズ) 作者:斉藤 倫 株式会社 福音館書店 Amazon シリーズ四作め。夏休みが始まったというのに、実習先に残してしまった大変な忘れ物を回収するために、最初から大活劇である。おなじみの学園のメ…

『惑う星』 リチャード・パワーズ

惑う星 作者:リチャード・パワーズ 新潮社 Amazon スモーキー山脈の山小屋のテラスに望遠鏡を設置して、父と九歳の息子が、木々の間から星空を見ている。「この世界と折り合いが悪い」息子ロビンについて、これまでかかった三人の医師がそれぞれに別の病(症…

『お月さんのシャーベット』 ペク・ヒナ

お月さんのシャーベット 作者:ペク・ヒナ ブロンズ新社 Amazon 夏のあついあつい晩、どこの家も窓をぴしぴし閉めて、エアコンびゅんびゅん、扇風機ぶんぶんで、なんとか眠ろうとしていた。だけど、眠れないのが、はんちょうのおばあちゃん(姿はおおかみ)。…

8月の読書

8月の読書メーター読んだ本の数:1読んだページ数:162木の感想読んでいるうちに、木に人格があるような気がしてくる。著者は、木を見に行くのではなくて、木に会いに行く。ほぼ声(音)がないはずの木々に賑やかさを感じる一方で、音を聞くことを通して静け…

『木』 幸田文

木 作者:幸田 文 新潮社 Amazon 著者は木を見に行く。北は北海道、南は屋久島まで、えぞ松、藤、ひのき、杉、ポプラ……野生のものから人の手で植樹されたものまで、そして、生きた木から、挽いて材となった木まで。 読んでいるうちに、木に人格があるような気…

7月の読書

77月の読書メーター読んだ本の数:9読んだページ数:1972タスマニアの感想タスマニア。実在するそこに逃げても、危機から逃れられるわけがない。書かなければならない「僕」の気持ちこそ、タスマニアだったのだろう、と今になってみれば思う。 最初から共に…

『タスマニア』 パオロ・ジョルダーノ

タスマニア 作者:パオロ・ジョルダーノ 早川書房 Amazon 物理学者であり作家である「僕」は、家族の危機に直面している。そして、それぞれに深刻な(時にぎょっとするような)問題を抱えた友人たちがいる。社会を見渡せば、環境危機、無差別テロ、核兵器の脅…

『うみまだかな』 うちむらたかし

うみまだかな 作者:うちむら たかし クレヨンハウス Amazon おとうさんとおかあさんと、車に乗って海に行くのだ。ページをめくるごとに、ぼうやは、尋ねる。ねえ、うみまだ?(今出発したばかり)ここまがれば海?まだまだ。ああ、そこで雨がふってくるのか…

『ふしぎ草紙』 富安陽子

ふしぎ草子 作者:富安 陽子 小学館 Amazon すごく怖い話は苦手だけれど、ほんの少し怖い話、あやしい話、不思議な話は読む。夏だから。これは、ホラーの内にはいるのかな。児童書なので、いろいろな意味でどぎつい場面がないのがありがたいし、一作ごとに、…

『家の中』 中里恒子

家の中 作者:中里 恒子 講談社 Amazon 「あとがき」には短編集と書かれているが、随筆、私小説だろうか。書かれたのは昭和54年から57年。鍵につけられた木製の札は、昔、うちにもあった。電話のない家もたくさんあり、近所の家に呼び出してもらうことも普通…

『山と言葉のあいだ』 石川美子

山と言葉のあいだ 作者:石川美子 ベルリブロ Amazon 「山道をゆっくり歩いていると、なつかしい人の言葉をふっと思い出すことがある」との一文から始まるエッセイ集。 おもに、モンブランの麓の町シャモニーを背景にして、著者は「なつかしい人」たちを振り…

『ヒッコリー・ロードの殺人』 アガサ・クリスティー

ヒッコリー・ロードの殺人 (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫) 作者:アガサ・クリスティー 早川書房 Amazon 「ヒッコリー、ディッコリー、ドック、ねずみが時計を駆けのぼる……」誰かが歌っている。ポアロも歌っている。 ヒッコリー・ロード24・26番地にある学…

『見えるもの見えないもの:翔の四季 春』 斉藤洋

見えるもの 見えないもの 翔の四季 春 作者:斉藤 洋,いとう あつき 講談社 Amazon これは、『翔の四季』シリーズの四作目、完結編。前作『こえてくる者たち:冬』の終りのほうでちらりと見えた不穏な影の正体が、この物語で、はっきりする。そして、翔、涼、…

『ぼくのじゃがいも』 ジョシュ・レイシー/モモコ・アベ

ぼくのじゃがいも 作者:ジョシュ・レイシー こぐま社 Amazon ペットを飼いたい子どもの気持ちはわかるけれど、いま動物を飼えない、大人には大人の事情もある。だからといって、冗談で、リボン付きのじゃがいも一個、ペットとして子どもにプレゼントする父親…

『ケス:鷹と少年』 バリー・ハインズ

ケス: 鷹と少年 作者:バリー ハインズ 彩流社 Amazon ビリーはもうすぐ学校を修えて働きに出なければならないが、家は極貧だし、読み書きもろくに出来ない。教師たち(すべてではないが)も、警察官も、そして新聞配達バイトの雇い主も、ビリーのような少年…

6月の読書

6月の読書メーター読んだ本の数:11読んだページ数:2652葉っぱの地図の感想物語は、ファンタジー、児童書の姿をしているが、この世で起きていることの雛型みたいだ。タイトルの「葉っぱの地図」という言葉を見たときには、可愛いタイトル、と思ったものだけ…

『葉っぱの地図』 ヤロー・タウンゼント

葉っぱの地図 作者:ヤロー・タウンゼンド 小学館 Amazon 主人公オーラは12歳。野いばら村のはずれの小さな小屋に、母なきあと、たった一人で住んでいる。彼女は植物の言葉を聞く力を持っている。この地域(世界?)の社会の様子や人間たちの関係など、何の説…