『私立探検家学園3 天頂図書館の亡霊』

私立探検家学園3 天頂図書館の亡霊 (福音館創作童話シリーズ) 作者:斉藤 倫 株式会社 福音館書店 Amazon 松田コロンたちは、進級して探検家学園二回生になった。(小学六年生に相当)普段の日の授業風景と学期末の実習とで物語が成り立っているのは、一二巻…

『マギンティ夫人は死んだ』 アガサ・クリスティー

マギンティ夫人は死んだ (ハヤカワ文庫 クリスティー文庫 24) 作者:アガサ クリスティー 早川書房 Amazon 小村ブローディニーで掃除婦をしていたマギンティ夫人が撲殺された事件は、すぐに逮捕された青年が死刑判決を受けて、早くも世間から忘れられようとし…

『埴原一亟古本小説集』  埴原一亟

埴原一亟古本小説集 作者:埴原 一亟,山本 善行 夏葉社 Amazon 時期は、おもに(戦中を引き摺りながらも)戦後の混乱期の頃だろうか。主に作家であり本屋(古書店)の島赤三(作家自身だろうか)を主人公にした七編の短編である。 なにもかもの価値観が変わって…

『星合う夜の失せもの探し:秋葉図書館の四季』 森谷明子

星合う夜の失せもの探し: 秋葉図書館の四季 作者:森谷 明子 東京創元社 Amazon 『れんげ野原のまんなかで』『花野に眠る』に続く「秋葉図書館の四季」シリーズ三冊目。この物語は、いったいいつ頃の物語なのだろうーーたぶん、いつでも。シリーズ一作目の『…

『冬将軍が来た夏』 甘耀明

冬将軍が来た夏 作者:甘耀明 白水社 Amazon 主人公の「私」がレイプされたとき、誰もいないはずの部屋で、彼女の祖母がそれを見ていた。部屋には、横40センチ、縦70センチ、高さ40センチのトランクが置いてあり、中に、祖母が、身体を折りたたんで入っていた…

『私立探検家学園2 あなたが魔女になるまえに』 斉藤倫

私立探検家学園2 あなたが魔女になるまえに (福音館創作童話シリーズ) 作者:斉藤 倫 株式会社 福音館書店 Amazon 私立探検家学園一年生(小学校なら五年生)の松田コロンたちの二度目の実習は一年目の終りごろにある。一度目の実習と同様、ウエハースという…

3月の読書

3月の読書メーター読んだ本の数:10読んだページ数:2690長い一日の感想自分たちの住まい方はもちろん、隣人たちとの付き合い、近所の風景や音、スーパーの棚の配置まで全部ひっくるめて、家。出会ったりすれ違ったり、寂しい思いをしたり、嬉しかったり、そ…

『長い一日』 滝口悠生

長い一日 作者:滝口 悠生 講談社 Amazon 作家夫妻を中心にして、近所の人、友人たちの、ほとんどとりとめのない思いをゆるやかに繋いで、ある一日を描き出している。一日は、過去や未来と混ざりあって、境界がぼんやりしている。登場する人たちも、(時々誰か…

『ネイティヴ・サン ーアメリカの息子』 リチャード・ライト

ネイティヴ・サン―アメリカの息子―(新潮文庫) 作者:リチャード・ライト 新潮社 Amazon 1930年代のシカゴで、貧しい黒人青年ビッガー・トマスは、白人女性を誤って殺してしまう。発覚を恐れた彼は、遺体の首を斬り、暖房炉に押し込み、逃亡を謀る。このあた…

『私立探検家学園1 始まりの島で』 斉藤倫

私立探検家学園1 はじまりの島で (福音館創作童話シリーズ) 作者:斉藤 倫 株式会社 福音館書店 Amazon 「わたし」こと松田コロンは、祖父(いまは行方不明)の希望で、小学五年生になる年に、私立探検家学園に入学した。初登校の日は、急流を前にしてどうや…

『シンデレラはどこへ行ったのか ~少女小説と『ジェイン・エア』~』 廣野由美子

シンデレラはどこへ行ったのか 少女小説と『ジェイン・エア』 (岩波新書) 作者:廣野 由美子 岩波書店 Amazon 現代も読みつがれる、いくつかの古典的少女小説は、若い読者の心に希望を吹き込み、その人生まで変えてしまう何かをもっている。こうした作品群が…

『90歳セツの新聞ちぎり絵』 木村セツ

90歳セツの新聞ちぎり絵 作者:木村 セツ 里山社 Amazon (2019年当時)90歳の木村セツさんのちぎり絵の画集。表紙のおいしそうなハンバーガーも、裏表紙のリアルなブロッコリーも、お正月のお飾りから始まって、春夏秋冬、だるまさんや菜の花、カタツムリや…

『年老いた子どもの話』 ジェニー・エルペンベック

年老いた子どもの話 (Modern&Classic) 作者:ジェニー・エルペンベック 河出書房新社 Amazon 商店街で佇んでいた女の子は、尋ねられて年齢は14歳といったが、名前は言えなかった。身元が分からないので、児童養護施設に入れられた。女の子は、大きい。ぷっく…

『じゅげむの夏』 最上一平

じゅげむの夏 作者:最上一平 佼成出版社 Amazon 「ぼく」ことアキラ、山ちゃん、かっちゃん、シューちゃんは、天神集落に住む小学四年生。四年生が九人しかいない小学校で、そのうち四人が天神集落に住んでいた。まわりは山。田んぼが広がり、泳げる川がある…

『やまをとぶ』 きくちちき

やまをとぶ (岩波の子どもの本) 作者:きくち ちき 岩波書店 Amazon 「ぼくの うちはね やまに かこまれている」 朝日が昇って始まる一日、夕陽がきれいと思える一日。「ぼく」は、空を飛んでいく伝書ばとや、庭に来る鳥、野良猫に呼びかける。うちの犬くろと…

『わが庭の寓話』 ジョルジュ・デュアメル/尾崎喜八

わが庭の寓話 (ちくま文庫 お 27-1) 作者:尾崎 喜八,ジョルジュ デュアメル 筑摩書房 Amazon 詩人デュアメルの庭の、樹木、草花のこと、実りのこと、天気や庭の外のこと、それから、園丁のことや犬や猫、家禽のこと、虫や野鳥を始めとするさまざまな訪問者・…

『フランクフルトへの乗客』 アガサ・クリスティー

フランクフルトへの乗客 (ハヤカワ文庫 クリスティー文庫 96) 作者:アガサ クリスティー 早川書房 Amazon 外交官サー・スタフォード・ナイの乗った旅客機は、悪天候のため、急遽フランクフルトの空港に着陸した。ロンドンへの便を待つ空港待合室で、彼は一人…

2月の読書

2月の読書メーター読んだ本の数:9読んだページ数:2160氷上旅日記[新装版]:ミュンヘン‐パリを歩いての感想タイトルは「旅日記」だけれど、これは、紀行文ではないし、何かの記録でさえない。自分自身や架空の人間との長い対話。旅人の深い孤独は、読み手に…

『氷上旅日記』 ヴェルナー・ヘルツォーク

氷上旅日記[新装版]:ミュンヘン‐パリを歩いて 作者:ヴェルナー・ヘルツォーク 白水社 Amazon 1974年晩秋、ミュンヘンの著者は、パリ在住の恩人が重病だと知る。「あのひとを死なせるわけにはいかない」「ぼくが歩いていけば、あの人は助かるのだ、と固く信じ…

『暗やみに能面ひっそり』 佐藤まどか

暗やみに能面ひっそり 作者:佐藤 まどか ビーエル出版 Amazon 宗太、10歳の夏休み。かあさんがロンドンに出張するため、彼は、京都の父方の祖父母のもとで一週間過ごすことになった。父母は、四年前に離婚したため、父方の祖父母に会うのも四年ぶりだ。 宗太…

『アミナ』 賀淑芳

アミナ (エクス・リブリス) 作者:賀淑芳 白水社 Amazon 他民族・多言語の国マレーシアで、中国語で書く文学(作者・賀淑芳のように)を、馬華文学というのだそうだ。訳者あとがきの、マレーシア特有の法や慣習など、丁寧な解説にはとても助けられた。きちん…

『聞け!風が』 アン・モロー・リンドバーグ

聞け!風が 作者:アン・モロー・リンドバーグ みすず書房 Amazon 1931年のリンドバーグ夫妻による太平洋調査旅行について書かれた『翼よ、北に』 から二年。1933年、夫妻は大西洋航路開発のための調査飛行を決行する。これは、その帰途最後のいちばん長い航路…

『こしたんたん』 りとうようい

こしたんたん 作者:りとう ようい 絵本館 Amazon 一頭のトラが、ひそかにウサギを追いかけて、藪の中を走っている。ウサギは、水を飲むために立ち止まる。隠れたトラは、これはチャンス! と目玉ぎらぎら、「虎視眈々」と狙いを定めて……。 ところが水場には…

『フォグ 霧の色をしたオオカミ』 マルタ・パラッツェージ

フォグ 霧の色をしたオオカミ 作者:マルタ・パラッツェージ 岩崎書店 Amazon 1880年のロンドン。ストリートチルドレンのクレイは、仲間と三人でテムズ川底の泥の中から「戦利品」を収穫して少しばかりのお金に替えて暮していた。 あるとき、町にサーカスがや…

『冬牧場』  李娟(リー・ジュエン)

冬牧場 作者:李娟,河崎みゆき アストラハウス Amazon 真冬に、極々寒の北から、極寒の南の荒野・冬牧場へ、羊、駱駝、馬、牛を連れて移動するカザフ族遊牧民、ジ―マの家族と著者は、一冬、生活をともにする。彼らの冬の生活を記録するためだ。新疆ウイグル自…

『夢の10セント銀貨』 ジャック・フィニイ

夢の10セント銀貨 (ハヤカワ文庫 FT 2) 作者:ジャック フィニイ 早川書房 Amazon 私たちが暮らすこの世界は、少しずつ異なりながら無数に存在するという。多元世界という考え方なのだ。「この多元世界は、それぞれ大幅に異なっていたり、最も平凡な点でのみ…

『図書館がくれた宝物』 ケイト・アルバス

図書館がくれた宝物 作者:ケイト・アルバス 徳間書店 Amazon 1940年、戦争の夏。たった一人の身内である祖母を亡くした三兄妹(ウィリアム12歳、エドマンド11歳、アンナ9歳)は、弁護士の提案で、小さな町に疎開する。ロンドンより安全であるし、疎開先家族…

1月の読書

1月の読書メーター読んだ本の数:9読んだページ数:2140真昼のユウレイたちの感想幽霊たちのやさしさがしみじみと温かくて、人知れず静かに苦しんでいる人たちが、過去からこんなにも大切に見守られていることに、ほっとする。目に見えても見えなくても、あ…

『真昼のユウレイたち』 

真昼のユウレイたち 作者:岩瀬成子 偕成社 Amazon 四つの短編に共通するのは、幽霊が出てくること。語り手(小学生)は、それを最初は幽霊とは思わない。ちゃんと実体があるし、普通に会話しているし、握手だってできるのだから。幽霊たちは、思い残すこと、…

『ウィンダム図書館の奇妙な事件』 ジル・ペイトン・ウォルシュ

ウィンダム図書館の奇妙な事件 (創元推理文庫) 作者:ジル・ペイトン・ウォルシュ 東京創元社 Amazon ケンブリッジ大学のセント・アガサ・カレッジには、正規の図書館のほかに、もうひとつ、十七世紀の大富豪によって寄贈されたウィンダム図書館がある。寄贈…