『27000冊のガーデン』 大崎梢

27000冊ガーデン 作者:大崎梢 双葉社 Amazon 星川駒子は、神奈川県立戸代原高校の図書館司書。図書館といっても学校図書館は、地域に開かれた公立図書館とは、いろいろ違う。学校は閉じられた場所であるから、生徒は、学校がすべて、になりがちだ。居場所が…

『一人娘』 グアダルーペ・ネッテル

一人娘 作者:グアダルーペ・ネッテル,宇野和美 現代書館 Amazon 物語はサプライズの贈り物だった。最後に受け取った思いがけないものまで含めて。 女なら子を産むべし、生んだからには全責任を持って育てるべし、と周囲から期待と圧をかけられる。子が生まれ…

『とびきりすてきなクリスマス』 リー・キングマン

とびきりすてきなクリスマス (岩波少年文庫) 作者:リー・キングマン 岩波書店 Amazon アメリカ北東部の海岸に面したマサチューセッツ州の小さな村で農家を営むセッパラ家のクリスマス。十人の子がいるセッパラ家のクリスマスは、『クルミわりとネズミの王さ…

『クルミわりとネズミの王さま』 E.T.A.ホフマン

クルミわりとネズミの王さま (岩波少年文庫 75) 作者:E.T.A. ホフマン 岩波書店 Amazon ときは1816年。日本では江戸時代の終わりごろだそう。ドイツ、ニュルンベルクの、医学顧問官シュタールバウム家のクリスマス。居間のまんなかの大きなもみの木になって…

『ほんのささやかなこと』 クレア・キーガン

ほんのささやかなこと 作者:クレア キーガン 早川書房 Amazon 時期は1985年のクリスマスの頃。主人公は、石炭と木材を商うビル・ファーロング。妻と五人の娘たちとともにクリスマスを迎える準備をしていた。ささやかだけれど、暖かい家庭で、いかにも居心地…

『ベーグル・チームの作戦』 E.L.カニグズバーグ

ベーグル・チームの作戦 (岩波少年文庫 140) 作者:E.L. カニグズバーグ 岩波書店 Amazon マーク・セッツァーの、12歳秋から13歳になる夏の終わりまで、一年間の物語。バーミツバ(ユダヤ教の成人式、13歳)の準備の一年間であり、自分もレギュラーとして活躍…

『ほんとうはひとつの話』 E.L.カニグズバーグ

ほんとうはひとつの話 (1977年) (岩波ものがたりの本) 作者:E.L. カニグズバーグ Amazon 長編作品主流のカニグズバーグの、これはただ一つの短編集とのこと。四つの短編小説が収録されている。主人公は、大体十歳くらいの子どもたち。訳者あとがきにあるよう…

11月の読書

11月の読書メーター読んだ本の数:16読んだページ数:4015モンテ・クリスト伯 下 (岩波少年文庫 505)の感想復讐の物語に、気持ちのよい結末が待っているはずはない、と思うのだけれど、この物語はあと味がよい。受けた苦痛を決して忘れない主人公は、受けた…

『モンテ・クリスト伯(上・中・下)』 アレクサンドル・デュマ

モンテ・クリスト伯 上 (岩波少年文庫 503) 作者:アレクサンドル・デュマ 岩波書店 Amazon 上中下、合わせての感想です。 船乗りエドモン・ダンテスは前途洋々の若者だったが、婚約披露宴の最中に、身に覚えのない罪で逮捕され、孤島の土牢に終身刑で幽閉さ…

『ぼくのおじいさん』 飯野和好

ぼくのおじいさん 作者:飯野和好 偕成社 Amazon これは、山の中で暮らしていた「ぼく」の子ども時代を描いた『ぼくとお山と羊のセーター』とセットで読みたい絵本だ。現在、町の中で、お金を仲立ちにして生活する私たちからみれば、自給自足が当たり前の「ぼ…

『聖なる酔っぱいの伝説』 ヨーゼフ・ロート

聖なる酔っぱらいの伝説 作者:ヨーゼフ ロート 白水社 Amazon 三つの短編小説を読む。 『聖なる酔っ払いの伝説』セーヌ川の橋の下に住む宿無しのアンドレアスは、ある日、立派な紳士から200フランという金を恵まれる。返すつもりがあるなら、サント・マリー…

『バンビ 森の、ある一生の物語』 フェーリクス・ザルテン

バンビ 森の、ある一生の物語 (岩波少年文庫 199) 作者:フェーリクス・ザルテン 岩波書店 Amazon 副題は「森の、ある一生の物語」。春の日に森の茂みのなかで生まれた子鹿バンビ。生き生きとした森の描写、とりわけ四季の変化の様子、そして、小鳥や動物たち…

『BB/PP』 松浦寿輝

BB/PP 作者:松浦 寿輝 講談社 Amazon 九つの短編。表題作『BB/PP』は、シャルル・ペローの童話『青ひげ』を題材にした物語だが、予想どおり、というか、予想を超えた展開に、「ひえー」と声をあげたくなる。ほかの短編もこんな感じなのかなと慄いたが、大丈…

『はるかな国の兄弟』 アストリッド・リンドグレーン

はるかな国の兄弟 (岩波少年文庫 85) 作者:アストリッド・リンドグレーン 岩波書店 Amazon 美しさと勇敢さと優しさとを兼ね備えた兄ヨナタンと、ヨナタンを慕う病弱の弟のカール。カールを語り手にした、これは、少年のまま亡くなった兄弟の死後の冒険の物語…

『三部作【トリロギーエン】』 ヨン・フォッセ

三部作【トリロギーエン】 作者:ヨン フォッセ 早川書房 Amazon 二人の恋人たちが、大きな港町ビョルグウィンに現れるところから始まる。二人は宿を探していたが、どこも断られ続け、途方に暮れている。二人は若く、まだ少年少女と呼ぶのが相応しい年齢なの…

『暴力は絶対だめ!』 アストリッド・リンドグレーン

暴力は絶対だめ! 作者:アストリッド・リンドグレーン 岩波書店 Amazon 1978年、アストリッド・リンドグレーンは、ドイツ書店協会平和賞を受賞した。これは、その授賞式でのリンドグレーンのスピーチの全文だ。子どものしつけの名のもとに横行する、支配、抑…

『赤い鳥の国へ』(再) アストリッド・リンドグレーン

赤い鳥の国へ 作者:アストリッド・リンドグレーン 徳間書店 Amazon 身寄りのない二人の子どもはあるお百姓に、働き手として引き取られる。ろくなものも食べさせてもらえず、朝から晩まで働き詰めの幼い子どもらは、真冬の雪の中を飛ぶ赤い小鳥に導かれて、不…

『藁屋根』 小沼丹

藁屋根 (講談社文芸文庫 おD 10) 作者:小沼 丹 講談社 Amazon 八つの私小説がおさめられた短編集。どれもよかったけれど、大寺さん(作者自身?)が主人公の三作がことに好きだ。なんの特別なこともない日々に、ごくごく微小な風が立つ。 『藁屋根』では、新…

『さすらいの孤児ラスムス』 アストリッド・リンドグレーン

さすらいの孤児ラスムス (岩波少年文庫 105) 作者:アストリッド リンドグレーン 岩波書店 Amazon 孤児ラスムスが「孤児の家」から逃げ出すところから物語は始まる。風来坊のオスカルと出会い、新しい両親をみつけるために一緒に旅をする。 読みながら、この…

『火を灯す男たち』 エマ・ストーネクス

光を灯す男たち (新潮クレスト・ブックス) 作者:エマ・ストーネクス 新潮社 Amazon 1972年末、コーンウォールの離島メイデンロックの灯台から三人の灯台守の男たちが消えてしまう。内側から施錠された灯台。いつも通りに片付いた内部は何のトラブルの形跡も…

『薄情』 絲山秋子

薄情 (河出文庫) 作者:絲山秋子 河出書房新社 Amazon 主人公の宇田川は、東京の大学を卒業して地元の高崎市に戻ってきている。いずれ伯父の神社の後継者として神主になることが決まっているため、いまは定職についていない。宙ぶらりんの状態だ。 都会と地元…

『リコはおかあさん』 間所ひさこ

リコはおかあさん (ポプラ社の創作童話 10) 作者:間所 ひさこ ポプラ社 Amazon 先日カニグズバーグの『ぼくと〈ジョージ〉』を読みながら、子どものころに好きだったこの本のことを思い出した。 小学三年生のリコと、リコの内側から「リ、コ」と呼び掛けてく…

10月の読書

10月の読書メーター読んだ本の数:9読んだページ数:1895ぼくと〈ジョージ〉 (岩波少年文庫 149)の感想親友がこんなに近いところにいるというのに、読みながら感じるのは孤独、孤立。物語は、読み手の想像の斜め上を行くような感じ。こちらがこういうゴール…

『ぼくと〈ジョージ〉』 E.L.カニグズバーグ

ぼくと〈ジョージ〉 (岩波少年文庫 149) 作者:E.L. カニグズバーグ 岩波書店 Amazon 12歳のベンの双子の兄弟(親友でもある)ジョージの存在を知っているのは、ベンと弟のハワードだけ。母親も知らない。ジョージは、ベンのなかにいる。二人は「一人のくせに…

「郵便局と蛇」 A.E.コッパ―ド

郵便局と蛇: A・E・コッパード短篇集 (ちくま文庫 こ 48-1) 作者:A.E. コッパード 筑摩書房 Amazon 十の短編、寓話のよう、と思いながら読み始める。たとえば、町かどで日向ぼっこをしているポーターが依頼された仕事は何とも風変わりで……という『銀色のサー…

『深読み! 絵本『せいめいのれきし』』 真鍋真

深読み! 絵本『せいめいのれきし』 (岩波科学ライブラリー) 作者:真鍋 真 岩波書店 Amazon 『せいめいのれきし』(バージニア・リー・バートン作、いしいももこ訳)という絵本をご存知ですか。 『せいめいのれきし』は、1963年に出版された、「地球が生まれ…

『クローディアの秘密』 E・T・カニグズバーグ

クローディアの秘密 (岩波少年文庫) 作者:E.L.カニグズバーグ 岩波書店 Amazon クローディアは弟のジェイミーを相棒にして家出する。行き先はメトロポリタン美術館。美術館で暮らすことは素敵だ。お風呂は噴水、ベッドは(そこで誰かが殺害されたと言われ…

『魔女ジェニファとわたし』 E.L.カニグズバーグ

魔女ジェニファとわたし (岩波少年文庫 84) 作者:E.L. カニグズバーグ 岩波書店 Amazon 登校途中のエリザベスが、木の上にいるジェニファに出会ったのは、ハロウィーンの日。印象的な出会いの場面だった。普通の女の子に見えるが、ジェニファは魔女なのだと…

『山影の町から』 笠間直穂子

山影の町から 作者:笠間 直穂子 河出書房新社 Amazon 著者は、都内のマンションから、秩父の街の中にある庭付き一戸建ての家に引っ越してきた。引っ越しした理由はいろいろあるが、その大きな一つ「いい匂いを嗅いでいたかった」という言葉が心に残る。夜、…

『モナ・リザのニスを剥ぐ』 ポール・サン・ブリス

モナ・リザのニスを剥ぐ (新潮クレスト・ブックス) 作者:ポール・サン・ブリス 新潮社 Amazon モナ・リザこと《ラ・ジョコンド》は、時の経過によって変色をおこしている。酸化して黄ばんだニスがコントラストを狂わせる。肖像画は年々薄暗がりの奥に沈みこ…