『ビッグ4』 アガサ・クリスティー

 

「ビッグ4」というのは、四人の主要人物を中心とした秘密結社で、世界征服をもくろんで活動している。
資金も人も莫大。仕掛ける事件も大掛かり。
彼らがひそかに入手し、実用化しようとしていた研究のひとつが、原子力エネルギーを使った驚異的な兵器らしい。
つまり原子爆弾の雛型のようなもの(まだ計画だけれど)が、この物語に登場しているのだと思う。(この物語が発表されたのがまだ1927年、ということに驚いてしまう。)
「ビッグ4」の存在を知るものはごく少ない。というよりも、下手に知ってしまったり興味をもったりした人間は、あっという間に奇妙な「事故」か何かで消されてしまう。
ポアロは、その存在を知ってしまった。知ってしまっただけではなく、親友ヘイスティングズを助手にして、組織の息の根を止めようと闘いを挑む。


この物語は、クリスティーが精神的に最も苦しい時に執筆されたそうだ。
普通の長編ではなくて、これまで雑誌に掲載されたポアロものの短編12編をまとめて作られた物語であるそうだ。
そのせいだろうか、最初から最後まで息つく暇もないくらい次々と色々な事件が起こるし、くるくると舞台も変わる。
小さな事件が次々に起り、何度も絶対絶命のピンチに陥るのだ。
これらが短編12編のつなぎ合わせなら、この一作を逆に12に分けることもできるかな、と思ったが、しっかり絡み合った一作をほぐすことはとても無理だった。


そうはいっても、今まで読んできたポアロものと比較すれば、正直、とりとめのなさを感じてしまう。
ミステリ色は弱いと思う。むしろ冒険物語なのだ。
小さな事件はそれぞれに解決はするのだけれど、肝心な容疑者はいとも簡単に取り逃がしてしまう。ビッグ4の大物たちはそれはそれは狡猾で、決して証拠を残さない……とはいえ、ねえ。なぜそこで、ねえ。と何度も思った。
ポアロが苦戦しているのはよくわかるのだけれど。
そのわりに、結末はいささかあっけなくはないだろうか。
ちょっと気になる魅力的な登場人物が、別の物語でも元気に活躍してくれるそうなので(訳者あとがきによる)、そちらとの再会が楽しみだ。