『教会で死んだ男』 アガサ・クリスティー

 

もう八月も終わるが、まだまだ暑い日が続いている。
「ああ、ひげがぐにゃぐにゃになってしまった。この暑さのせいですよ!」
ポアロも言っている。暑いねえ、ポアロさん。


ポアロもの(11篇。ほとんどがヘイスティングスと同居していたころのもの)を中心に、怪奇もの一篇、マープルもの一篇、という短編集である。


殺人事件、国家機密文書紛失(盗難?)、謎の失踪事件など、バラエティに富んだ内容だ。
どの短編も、最後の数行が効いていて、物語を引き締めている感じだ。
ことに好きなのが、『呪われた相続人』で、名家の相続に関わる殺人事件の謎をポアロは解き明かす。大団円に終わったところで、最後に、ポアロがぼそりと漏らした言葉に、はっとする。物語はこの言葉以前に、きれいに解決しているのだ。それが、この一言で、すっかり様相が変わってしまう。これも……もしかしたら怪奇もの?


怪奇ものとしては、『洋装店の人形』という物語があり、不思議な人形をめぐって、人びとは躍らされるのだけれど……怖いのは、起こったことよりも、ひとの気持ち。「怖い」「不気味」が先入観になって見えるものを歪めてしまうのかもしれない。違う方面から、むしろ、まっすぐ前から、違うものを見いだす人がいる。その人の姿にも、納得だった。


マープルものは、表題作『教会で死んだ男』。チッピング・クレグホーン村の牧師夫人バンチに久々に再会できたのがうれしかった。(『予告殺人』以来です)
あいかわらずの天然ぶりながら、それだからこその独特の視点が、事件解決の役に立ったこと、路頭に迷いかけた子を救うことになったことなど、とってもいい。