『クリスマス・プディングの冒険』 アガサ・クリスティー

 

クリスティーに、クリスマスのご馳走に招待されたのだと思います。
「はじめに」でクリスティー本人が
「このクリスマスのご馳走の本は、『料理長のおとくい料理集』と名づけてもよろしいでしょう」
と言っているように。
六つの短編は、ポアロものが五話、ミス・マープルものが一話という構成。
ある旧家のクリスマス前夜と当日に起る事件を描いた、表題作『クリスマス・プディングの冒険』がやはりメインディッシュなのだろう。
あと味もよいし、イギリス家庭の古いクリスマスの様子や、クリスマス・プディングの役割(?)に出会えたことも楽しかった。タネを混ぜるところから、みんなでやるのね。
ヤドリギの下のキス(?)も出てきて、くすっと笑わせてくれた。
連続する夢と死の予告が不気味で神秘的な『夢』には、くらくらした。
最終話の『グリーンショウ氏の阿房宮』では、アホウの館の芝居がかった濃い三人が印象的だ。しばらくぶりにミス・マープル(甥のレイモンド・ウェスト宅に滞在中)に出会えたのがうれしかった。


事件とは関係ないけれど、ポアロと従僕のジョージとの会話が好きだ。
たとえば、ポアロは言う。
「……エルキュール・ポアロのあたまのよさとなると、ジョージ、これはまったく例外的な現象だからね」
「いつかも、そうおっしゃいました」とジョージはすまして。
ポアロと親友ヘイスティングズのコンビもいいけれど、ポアロとジョージのコンビも楽しい。


だけど、お気に入りの料理は本編より「はじめに」だ。
クリスティ自身が幼い頃、北イングランドの親戚の家で過ごしたクリスマスの思い出を語っているところ。
幸福なクリスマスの思い出があるって素敵だ。そして、子どもたちが素晴らしいクリスマスを過ごせるように骨を折ってくれた大人たちの存在に、思いを馳せることも素敵だ。
それを語ってくれることで、読む者も、照らされるように幸福な気持ちを味わう。少し昔のイギリスのクリスマスに憧れながら。
「朝のベッドの上の〝靴下"、教会での礼拝やいろんなクリスマスの聖歌、クリスマス正餐、贈り物、そして最後に、クリスマス・ツリーへの点灯、なんという愉しい一日だったことでしょう!」