『邪悪の家』 アガサ・クリスティー

 

どれも、本人は事故だったと思っているけれど、ニック・バックスリーは、ここしばらくの間に、何度も命を狙われている。
四度目に彼女が命拾いしたとき、その場にポアロと友人のヘイスティングズが居合わせて、明らかに事故ではないことに気がついた。
ニックをめぐる友人たちやいとこたち、隣人、メイドに庭師にいたるまでが、犯人になりうるけれど、肝心な動機が全く見えないのだ。
ニックは、エンド・ハウスという祖父から譲り受けた家の主人ではあるけれど、その家には資産価値はあまりないし、ほかに財産らしきものはほぼない。
人に恨まれるような性格でもない。
なぜ彼女がこんなにも執拗に命を狙われなければならないのだろう……
ポアロは、ニック本人の話を聞き、友人たちの話を聞き、どうも何か大切な情報が抜け落ちているのではないか、と思うのだ。
そうこうするうちに、エンド・ハウスでパーティーが催され、とうとう事件が起こる。


最後の最後まで振り回されっぱなし。
ポアロ五里霧中。印象としては、ずっと停滞している感じ。探偵側は、動いているのだけれど、何も進展しているようには見えないのだ。
読んでいるこちらは、少々焦ってくる。残りのページ数、もうあんまりないよ。それなのに、めぼしいものは何も見えない。こんなことでいいのか。
姿の見えない「犯人」だけが伸び伸びと好き勝手に動いているように見えるのだけれど。
この状況がひっくり返るのは、最後の最後だ。今までずっと停滞していたぶん、事態が変わるとなると、派手にぱたーんとひっくり返る感じ。


ああ、そういうふうには全然思わなかったよ。
順繰りに、めぼしい証拠が出てきたわけではないと思う。(末端的なのは徐々に見つかるものの……)
一番重要な事項は、最初から見えていたじゃないか、と気がついたとき、騙されたことも、騙しから解放されたことも、気持ちよいくらいの驚きだった。