『ポアロ登場』 アガサ・クリスティー

 

 

名探偵ポアロが活躍する短篇集だ。
『スタイルズ荘の殺人』と『アクロイド殺し』のちょうど中間くらいの作品、とのこと。
収録されている作品は、全部で14篇で、すべて、The Sketch誌に、1922年3月から11月までの短い期間に発表されたとのことで、びっくりしている。
物語も舞台も、多彩だ。
殺人事件、盗難事件、誘拐や詐欺、国をまたがる陰謀など、扱う事件もいろいろだ。
ベルギーで刑事だった若いころのポアロの回想談もあり、思いがけずの失敗談なども聞かせてもらえる。

ぴりっとひきしまった短編はもちろん、これ、さらに膨らました長編で読んでみたいと思うような、込み入った話もあり、飽きることはない。
冒険活劇的な物語が多く、ポアロは、忙しく飛び回っている印象だ。ここしばらく安楽椅子探偵ふうのミス・マープルシリーズを読んでいたので、物語の活気が新鮮だった。
クリスティー初期の作品であるとのことで、この活気はそのせいかもしれない。


この物語では、ポアロと友人(ワトソン役)のヘイスティングス大尉が、同じ家に下宿している。
ポアロは、皮肉と変なとぼけ方で、ヘイスティングスを茶化す。その態度に、それはあんまりだろうと思うが、ヘイスティングスのほうも、尊大なうぬぼれ屋で、どっちもどっちだ。
とても、愛されるキャラクターとは言えない、アクの強い人間が二人寄ると、不思議に印象的なコンビになってしまうのが、おもしろい。


短篇だから、さらっと軽く読めるかな、と思ったけど、むしろ、ちょっと気を抜くと、凝縮された大切な所を読み落としてしまうので、用心しないと。
そして、短編集を読み終えたころには、ほっとして、ああ、今度はもっと長いものをゆっくりと読みたい、と思うのだ。