『エッジウェア卿の死』 アガサ・クリスティー

 

わたしたちは、名探偵ポアロと相棒のヘイスティングスのあとについて、まずは、印象的な二人の女優に会う。
ひとりは、若手女優のカーロッタ・アダムズで「人物模写」が得意。この日も、舞台の上で、大物女優ジェーン・ウィルキンスンの「意味ありげな身のこなし」「なよやかに揺れる身体の動き」「肉体の強烈な美しさ」までも、再現してみせた。
観衆のなかで、カーロッタに惜しみなく称賛の拍手をおくっているのが、模写された当人ジェーン・ウィルキンスン。彼女は、そのとき、ポアロがいるのを見つけて、近づいてい来る。そして、夫との離婚の交渉を依頼する。
彼女の夫はエッジウェア卿。癖があると評判の男で、ただ、ジェーンを苦しめるために、離婚に応じないのだという。ジェーンは、人を憚ることなく、だれでもいいから夫を殺してくれればいいのに、と嘆く。
そして、ほんとうにエッジウェア卿は殺されるのである。


さて、誰が卿を殺したのか。
卿に恨みがある人間も、卿が亡くなって得をする人間も、どっさりいる。
あの人が容疑者ではあるまいか、と思う人間が次々にあらわれる。だけど、そう思うそばから、死んでしまったり、あるいは逮捕まで漕ぎ着けたものの、その瞬間、この人ではなかった、と気がついたり。


ポアロがいうには、犯人と断定するために解かなければならない疑問が五つある、という。疑わしい人たちに、五つの疑問の答えをみつけようとすれば、せいぜい三つくらいまでなら、解決できるが、後の二つがどうしてもなりたたないのだ。


最後の最後まで、思い切り振り回された。気持ちよいくらいに、すっかり騙された。
それにしてもなんとも強烈な人物のオンパレードだろう。いっそ清々しい。ある程度の度を越えると、驚きも、なんとなくの好感に変わるみたい。あの人もこの人も。知り合えてよかったかな。