『パーカー・パイン登場』 アガサ・クリスティー

 

「あなたは幸せ? でないならパーカー・パイン氏に相談を」なんて新聞広告を見たら、ちょっと胡散臭い、と思ってしまいそうだけれど、禿頭の大男パーカー・パインに実際に会ってみれば、「穏やかで、親切そうな様子で、なんとも説明しがたい、快い頼もしさ」があるという。
パーカー・パインは私立探偵ではない。
三十五年、官庁で統計収集の仕事をしていた経験から、なんでも人の不幸を統計的に分類し、きれいに解決することができるというのである。
夫の浮気や妻の心離れ、刺激のない暮らしの不満まで、依頼人は、パーカー・パインの前で、縷々悩みを打ち明ける。


12編の短編が収録されたこの短編集は、前半と後半で、雰囲気がすっかり変わる。
最初の6編は、イギリスの市中が舞台。
パーカー・パイン自身は動かないが、大掛かりな芝居を仕掛ける。
役者はハンサムな若い男性クロード君や、絶世の美女ド・サラ嬢を始めとしたチームだけれど、彼らは脇役。
主役は……たいてい、自分が芝居の主役に据えられていることに気がついていないのだ。
ポアロのシリーズでもおなじみの作家アリアドニ・オリヴァが(リンゴをかじりながら)脚本書きで協力しているのが楽しい。
その結果は……大成功!ということもあれば、たまには思いがけない失敗もある。
どちらかといえば、穏やかなお話が多い。正直、ちょっと物足りないかな、と思うのだけど、そう思っていると、まさかの展開に、ああっと驚かされるから油断ができない。


後半の六作は、中東を旅行中のパーカー・パインが、旅の道中に遭遇した事件を扱う。殺人、盗難、誘拐……。
探偵ではない、「わたしの専門分野は人間の心です」というパーカーパインは、その専門分野で、事件解決に乗り出す。
バグダッドからペルシャへ、ヨルダンへ、ギリシャのデルファイへ……作品ごとに変わる旅の舞台が楽しい。