10月の読書

10月の読書メーター
読んだ本の数:19
読んだページ数:4500

すべての雑貨すべての雑貨感想
雑貨って何なのだろう。最後のエッセイ『落葉』で、過去の旅の中で感じたいくつものむなしさが、影法師になって、ときどき著者の前に顔を出す、という。「(そのむなしさは)古い友人に再会したときのような安堵感のなかで、生きることを素直に肯定してくれる気がした」 物言わぬ雑貨たちの存在が、この言葉に重なるように感じた。
読了日:10月30日 著者:三品 輝起
ふしぎな にじ (福音館の単行本)ふしぎな にじ (福音館の単行本)感想
真っ黒な背景に描かれた虹は、「かがみ」にうつすと、たちまち見え方が変わるのがちょっと不思議で、美しい。形が変わる、それから、思いがけない動きやリズムが生まれる。小さな子が、ちいさな科学(?)に出会う扉でもあるかもしれない。なによりも、ほんとにきれいな絵本。
読了日:10月29日 著者:わたなべ ちなつ
しろくまのパンツしろくまのパンツ感想
これは、あれは、しろくまのパンツかな。え、ちがう?じゃあだれの?ページをめくるとパンツを履いた誰かさん登場。中にはその履き方はちがうでしょ、というのもあるけれど、「いないいないばあ」の変形みたいで楽しいのだ。だけど、肝心のしろくまのパンツはいったいどこに?
読了日:10月29日 著者:tupera tupera
バベットの晩餐会 (ちくま文庫)バベットの晩餐会 (ちくま文庫)感想
思いもかけないような宝を胸の内に眠らせている類まれな人。解き放つべき場所が与えられれば燦然と輝く宝であるのに、それができない身の上の、あるいは宝の価値を知らない人たちの中で埋もれていくしかない事は、なんと残酷なことか。物語、というより、おとぎ話に近いかもしれない。こういう物語が必要な人が、時が、ある。
読了日:10月28日 著者:イサク ディーネセン
優雅なのかどうか、わからない優雅なのかどうか、わからない感想
物語の中のいまの家も、近い将来の家も、それはそれは居心地がよいが、こだわりがある反面ずるくて無責任とも思ってしまう。そういう「優雅」。それだけですむのか。物語のラストは、この後の物語を期待させる。これから吹く風や、これから見る窓の景色を思い描く。雑木林を透かして子どもの歓声を聞くような余韻、と思う。
読了日:10月26日 著者:松家 仁之
ハロルド・フライの思いもよらない巡礼の旅ハロルド・フライの思いもよらない巡礼の旅感想
……そして、この本を読む私も歩いていることに気がつく。右足を出したらその前に左足を出して一歩一歩。こうして歩いているうちにもうそれだけでいいような気がしてくるのだけれど……歩みの先にこそあるあの場面この場面。そこからふりかえる長い道中のあの光景もこの光景も違うものに見えてくる。ここまでこられてよかった。
読了日:10月24日 著者:レイチェル・ジョイス
我的日本:台湾作家が旅した日本我的日本:台湾作家が旅した日本感想
呉明益『金魚に命を乞う戦争』が目当てだった。『眠りの航路』の背景のようなエッセイ。「金魚……」は敗戦後のある作家の敗戦日記の中の言葉。それに対しての呉さんの鋭い言葉は、読んでいてただ恥ずかしかった。18人の作家たちの、日本への(ときどき日本人以上の)理解や好意を読んできて。私たちは忘れっぽいにもほどがある。
読了日:10月22日 著者: 
パーカー・パイン登場 (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)パーカー・パイン登場 (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)感想
自分は不幸だという依頼人のためにパーカー・パインは大掛かりな芝居を仕掛ける。ハンサム青年や美女が登場するが、彼らは脇役。主役は自分が舞台に据えられていることに気がついていない。くすっと笑わされたりはするものの、穏やかなお話が多いかな。そう思っていると、まさかの犯罪に巻き込まれていたりするから油断ができない。
読了日:10月19日 著者:アガサ クリスティー
ウナギが故郷に帰るときウナギが故郷に帰るとき感想
ウナギが絶滅しかけていることへの危惧も書かれていて、見て見ぬふりをすれば、いずれは人の絶滅に繋がることも書かれている。私たちにはたくさんの課題があるが、きっと乗り越えられるはず。ウナギも私たち人間も、いつまでも神秘的で不気味で、ふてぶてしいくらいに豊かな謎であるならば。そして、あり続けるために。
読了日:10月18日 著者:パトリック・スヴェンソン
眠りの航路 (エクス・リブリス)眠りの航路 (エクス・リブリス)感想
仮面と素顔。眠りと死。似ているようで真逆のようで、実はみてくれが違うだけで、案外同じものなのかもしれない。いやいや、問題はそこではなくて、そこから生まれてくる別のものに思いを馳せるべきなのだろう。私たちの国が、過去にやらかしたことを、声高に責められなければ責められないほどに、恥ずかしくなる。
読了日:10月16日 著者:呉明益
火山のふもとで火山のふもとで感想
この物語は、(人生を)静かにゆっくりと閉じていく物語だと思う。閉じ方の毅然とした美しさは、実は閉じたとみえて、どこかで外に開かれているものだ、ということを同時に知る。物語の中で、登場人物のひとりが言う「古い家はいいなあ」が心に残る。「木の油がすっかり抜けて、軽くなった感じがして」
読了日:10月13日 著者:松家 仁之
チョコレートのおみやげチョコレートのおみやげ感想
みこおばさんとゆきちゃんと、二人で語りあって、おはなしが少しずつ変わっていくのが楽しい。抑えた色合いがおしゃれなこの本は、そのままチョコレートの箱みたい。今度のバレンタインには、チョコをひとつ添えてこの本をプレゼントしようか。チョコの味は……ミルクがかかった甘めのがいいな。だけど、あと味がすっきりしたのが。
読了日:10月11日 著者:岡田 淳
アメリカの奴隷制を生きるアメリカの奴隷制を生きる感想
奴隷制は、奴隷だけでなく奴隷所有者の人間性までも奪う制度だ。自分の主人は自分以外にいないのだ、いつか必ず自由になる、と決心したのは奴隷だった著者が、読み書きの力を知ったときから。学ぶってどういう事だろう、人間であるってどういう事だろう。苦しみながら、確かめながら、自分のものにしていった著者の言葉を噛みしめる。
読了日:10月09日 著者:フレデリック・ダグラス
子どもの本で平和をつくる: イエラ・レップマンの目ざしたこと子どもの本で平和をつくる: イエラ・レップマンの目ざしたこと感想
ふたりの子どものお腹以外の場所がどんどん満たされていくのを見て、初めて、そこが今までどんなにからっぽだったかを知った。お腹がすいているのは誰でもよくわかるけれど、それ以外の場所がすいていることは気がつきにくいものだ。新しく生まれてくる子どもたちの「むかしむかし……」は、こどもたちの未来の物語みたいだ。
読了日:10月08日 著者:キャシー・スティンソン
パトリックと本を読む:絶望から立ち上がるための読書会パトリックと本を読む:絶望から立ち上がるための読書会感想
「静かな部屋と、たくさんの本と、大人の導きが少しあればここまで伸びる」パトリックが特別ではないという。「なのに、それらが与えられる機会はほとんどなかったのだ」巧妙で徹底的な不平等の歴史、現状が、つらつらと語られる。パパに買ってもらった絵本を得意げに掲げる六歳の娘の将来がどうか明るくあれと願う。
読了日:10月07日 著者:ミシェル・クオ
地上で僕らはつかの間きらめく (新潮クレスト・ブックス)地上で僕らはつかの間きらめく (新潮クレスト・ブックス)感想
怪物にしかなれなかった人は、もしほかのやり方を知っていたら、きっとほかのものになった。ほかの物語を知っていたら、ほかの物語を語った。最も暗く惨めな場面でさえも、浮かび上がってくるのは他のものだ。「僕」は書く。「僕たちは決して、暴力が生んだ果実じゃない。――むしろ美の果実は暴力にも耐えたのだ」
読了日:10月04日 著者:オーシャン・ヴオン
七つの時計 (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)七つの時計 (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)感想
『チムニーズ館…』では完全に脇役だったバンドルを中心に若者たちが活躍する。殺人事件まで起きているのに、物語は、ゆるく長閑なコメディだ。ケイタラム卿とバンドル父娘のまったく噛み合わない会話には笑ってしまう。ふわふわとしたケイタラム卿のおしゃべりは楽しい。
読了日:10月03日 著者:アガサ・クリスティー
チキン! (文研じゅべにーる)チキン! (文研じゅべにーる)感想
小学校高学年のクラス、どこにでもありそうな派閥や、不器用ないがみあい。なんだか窮屈だ。毛色の違う個性が際立つのが二人(そして、周りを見まわせば案外そんなのばかりじゃないか)彼らがまわりに及ぼす力は徐々にクラスに浸透していくよう。思っているよりも空気は柔らかいのかもしれない。
読了日:10月02日 著者:いとう みく
悪友悪友感想
怒りや苦しみは、歌になったときから、瑞々しいほかのものに変わっていきそうではないか。書き残した(いや詠み残した?)瞬間瞬間の欠片から、小さな緑が芽吹いていきそうな、こんな風に言ったら叱られるかもしれないが、その怒りは、歌になるとき、ぎゅっと詰まった小さな種にもなるのではないか。
読了日:10月01日 著者:榊原紘

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