11月の読書

11月の読書メーター
読んだ本の数:18
読んだページ数:4048

アヒル命名会議アヒル命名会議感想
名前には、名前から連想するイメージがついてくる。名付けたり、名前を呼んだりするとき、そのつもりがあってもなくても、名前といっしょにあるイメージも思い浮かべている。与えたいイメージと、脱したいイメージが、ある。名前を付けることと、名前をとりあげること。名前を呼ぶ事と、名前の境界をぼやけさせること。名前を消すこと。
読了日:11月29日 著者:イ・ラン
五足の靴 (岩波文庫)五足の靴 (岩波文庫)感想
詩人四人の九州旅。新聞の連載は二十九回。いったいどのくらいの長きに渡る旅だったのだろう。時間を気にせずにゆったりとめぐる旅程がうらやましい。「よそ見にはまるで修学旅行のように見えたかもしれない」と後に吉井勇は回想している。文章は美しくて、ときどき、これはいったい五人のうちの誰が書いたのだろうと詮索したくなる。
読了日:11月27日 著者:五人づれ
雨の島雨の島感想
あまりに小さくて孤独な六人の主人公たちが、どこまでも進出し浸食しようとする人間社会の手に、からめとられもせずにいる姿は、痛ましくも逞しくも感じる。六つの物語が新しい神話のように思えてくる。物語の主人公たちが、神話の扉の鍵を開こうとしているように思える。
読了日:11月26日 著者:呉明益
村の学校村の学校感想
学校は、周囲の大人たちの大きな関心事なのだ。日々の話題を提供するのは個性豊かな大人たちといたずら盛りの子どもたちと、どちらが多いだろう。あちこちで出何かが起こり、言葉をなくし、顔を見合わせ、ときどき笑い崩れたりしながら、日々はまわっていく。きっと次の一年も大きく変わらないだろうと思えることがちょっとうれしい。
読了日:11月24日 著者:ミス リード
ホハレ峠;ダムに沈んだ徳山村 百年の軌跡ホハレ峠;ダムに沈んだ徳山村 百年の軌跡感想
ダムが奪ったのは「土地」という形あるものではなく、そこに宿り、子から子へと受け継がれてきた尊いなにか(私に本当にわかっているかどうか怪しいけれど)だと思うのだ。ダムの寿命はわずか百年だそうだ。一人の人間の寿命でしかないと。そうまでしてダムをつくらなければならなかった本当の目的はなんだったんだろうと考えてしまう。
読了日:11月22日 著者:大西 暢夫
若き日の哀しみ (海外文学セレクション)若き日の哀しみ (海外文学セレクション)感想
少年時代の思い出は、苦い話もあるけれど、一見、どれもほほえましいエピソードばかり。だけど死の影と不安が少年の思い出についてまわる。情景をあらわす文章は抒情的で美しい。美しい情景の中に隠されたものは、あとからゆっくりと効いてくる。直接に語られるよりも、うっすら見えてしまうもののほうが堪えることもある。
読了日:11月21日 著者:ダニロ キシュ
真夜中のちいさなようせい (ポプラせかいの絵本 67)真夜中のちいさなようせい (ポプラせかいの絵本 67)感想
チマチョゴリ姿の大きい人たちと小さい人たちと猫と、それからどうしてそうなったのかわからない小さい人と……が、仲良く遊ぶ空間のなんと明るくてなんと美しいことだろう。ここに私も入れてよ、というよりも、壊したくない宝物を見つけた気もちで、そうっと眺めていたい。
読了日:11月19日 著者:シン・ソンミ
よあけよあけ感想
川を下る途上、じいさんと孫とが川に突き出た岩山で一晩を過ごす。自然のなかの賑わい、明るさは、コントラストの妙かもしれない。完全に近い闇や静けさのなかで、輝き渡るもの、聞こえる音たち。(比べると町の明かりや賑わいは寂しく感じる) 真っ暗な夜から、訪れる「よあけ」もひときわダイナミックだ。なんという美しさ。
読了日:11月18日 著者:あべ弘士
青列車の秘密 (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)青列車の秘密 (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)感想
列車内の殺人。『オリエント急行の殺人』を思い出すが、あの事件では大吹雪に閉じ込められて列車が完全に止まっていたのだった。でも、この『青列車』は、動いている、走っている。走る列車はまるで生き物だ。「わたしは探偵としてはおそらく世界一でしょう」と胸を張るポアロに、関係者は辟易とするが、彼は言うだけのことをした。
読了日:11月16日 著者:アガサ・クリスティー
モノから学びます 今日がもっと好きになる魔法モノから学びます 今日がもっと好きになる魔法感想
いつだって穏やかに機嫌よくなんていられるわけがない。だから、身の回りに自分の味方になってくれるモノがあると心強い。ジーナさんに相槌を打つ気持ちで私も身の回りを見まわしてみる。机の上の老眼鏡やボールペン。椅子の上に放り出した上着まで自分の物語を語り出しそう。そう思うとなんだか愛おしくなってくるじゃないの。
読了日:11月15日 著者:イム・ジーナ
詐欺師の楽園 (白水Uブックス)詐欺師の楽園 (白水Uブックス)感想
文化の花咲くヨーロッパ。身軽な詐欺師たちが世を渡る様は華麗な魔術のショーを見ているようだ。この物語そのものが、ある種の価値観を手玉にとった大きな詐欺のからくりを読者の目の前に広げて見せているようにも思える。そうなら、登場する彼らは、まるで小さな駒だ。このゲーム、笑うのは誰かな。
読了日:11月14日 著者:ヴォルフガング・ヒルデスハイマー
光の犬光の犬感想
北の町で開いた物語は、静かに閉じていこうとしている。その見通しに清潔ささえ感じる閑さは寂しさとは違う。マジックリアリズム的要素は全くないはずだけれど、それぞれの生が静かなマジックのようだと思った。小さなマジックが集まって大きなマジックになり、それもやがて縮んで、綺麗に消えていく。
読了日:11月12日 著者:松家 仁之
ぼくは川のように話すぼくは川のように話す感想
吃音。長い時間をかけて克服した人の物語は読んだことがある。そのために力を貸してくれた素晴らしい助け手の話も読んだことがある。だけど、こういうお話には私は初めて出会った。川の音を聞きながら父さんが教えてくれたこと……。「ぼく」が自分でみつけたこと。私が自分で見つけ出したみたいでうれしくなってくる。本当に美しくて。
読了日:11月11日 著者:ジョーダン・スコット
ゴリラの森、言葉の海ゴリラの森、言葉の海感想
ゴリラの森を出て言葉の森に住む人間。小川さんは「言葉の獲得によって人間は、自らを亡ぼすかもしれない道を歩みはじめた。その危険の代償として、他の動物には受容できない、かけがえのない文学の喜びを得た」と。山極さんは「言葉で表現できないことがなんと多いことか」と。ますます難しくなっていく言葉の中を渡っていく。
読了日:11月09日 著者:山極 寿一,小川 洋子
チェリーシュリンプ わたしは、わたしチェリーシュリンプ わたしは、わたし感想
チェリーシュリンプとは、小さな赤いエビ。かよわそうだけれど、脱皮を繰り返して成長する逞しい生命体。「私と似ている」というダヒョンだけれど、最初と最後では「似ている」の意味が少し違う。こんなに小さなエビでさえ、見る側の気持ちによって印象が違ってくるのだもの、相手が人であればなおさらだよね。
読了日:11月05日 著者:ファン ヨンミ
もりはみている (幼児絵本シリーズ)もりはみている (幼児絵本シリーズ)感想
こちらを見るたくさんの目に出会って、やっぱり森はしずか。なにもしゃべらない。しずかだけれど、にぎやかだなあ、と思う。声にならない、音にならない賑わいを、そこかしこに感じて、これは、賑やかなしずかさ、といえるかもしれない。もりはしずかで、にぎやかだ。
読了日:11月04日 著者:大竹 英洋
潮風の下で (岩波現代文庫)潮風の下で (岩波現代文庫)感想
それぞれの章には、主人公(?)となる個体がいることはいるけれど、さまざまな生き物たちがそれぞれの懸命のドラマを繰り広げている。その様子が、まるでドキュメント映画のよう。自分がその場にいて息を詰めて見守っているよう。まるで軌跡のようなその生も、惨い死も、後の生きものたちを生かすよすがになるのだ、と受け入れる。
読了日:11月03日 著者:レイチェル・カーソン
ビッグ4 (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)ビッグ4 (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)感想
普通の長編ではなくて、これまで雑誌に掲載されたポアロものの短編12編をまとめて作られた物語であるそうだ。正直、とりとめのなさを感じてしまう。結末はいささかあっけなくはないだろうか。ちょっと気になる魅力的な登場人物が、別の物語でも元気に活躍してくれるそうなので(訳者あとがきによる)、そちらとの再会が楽しみだ。
読了日:11月01日 著者:アガサ・クリスティー

読書メーター