『もりはみている』 大竹英洋

 

「もりは しずまりかえり
 なにもしゃべらないけれど」
から始まる美しい森の写真絵本。
開くと、芳しい匂いがしてきそうだ。


しずまりかえった森にいったら、こちらもしゃべらないで、しずまっていたい。
そうしたら……
ほら、まつのきの すあなのおくから……
すぎのきの こずえの かげから……
あるいは やまならしのきのえだの うえで、したで……
ほら、だれかがじっとこちらをみているのに気がつくだろう。
たとえば、この絵本の表紙を見て。すあなのおくからのぞいているあの大きな黒い瞳


森の一日はゆっくりとすぎる。
夕方になっても、夜になっても、だれかがこちらをひっそりみている。
森にやってきた人間を警戒しているのだろうか。
なにかを問いかけているのだろうか。ただ不思議だなあ、と思っているのだろうか。
もしかしたら、もしかしたら、森全体が、静かに人を歓迎しているのではないだろうか。
私は、ここで、人の言葉を脱ぎ捨てよう。そうして、森の一部になる。


こちらを見るたくさんの目に出会って、森はしずかだけれど、にぎやかだなあ、と思う。
声にならない、音にならない賑わいを、そこかしこに感じて、これは、賑やかなしずかさ、と思う。
もりはしずかで、にぎやかだ。