10月の読書

10月の読書メーター
読んだ本の数:13
読んだページ数:2586

こぶたのむぎわらぼうし (はじめてよむどうわ)こぶたのむぎわらぼうし (はじめてよむどうわ)感想
七匹がおそろいの麦わら帽子にそれぞれの目印をつけるが、末っ子はなかなか決まらなくて……。こぶたのみつけためじるしがいいなあ、と思うのは、出会うまでの物語全部が好きだから。このめじるしのなかに、それまでの物語がみんな入っているからなのだ。自分だけが知っているうれしい物語が、帽子の上で揺れている。
読了日:10月30日 著者:森山 京
幽霊塔幽霊塔感想
不思議な文章の香気に、あてられてしまったかもしれない。物語の最後は大団円か? いいや、そんなことはどうでもいい。ほら、迷路のゴールに辿り着いた時、ほっとするよりむしろここで終わってしまうことにがっかりして、もと来た道に戻りたくなるような、そんな気持ち。
読了日:10月29日 著者:江戸川 乱歩
目まいのする散歩 (中公文庫)目まいのする散歩 (中公文庫)感想
大病後の作品とは思えないほどの伸びやかな「散歩」は、一種の達観なのかもしれない。人生が散歩、と思うなら、わたしの今このときも散歩の途上。ときに道に迷ったり、思いがけないところで躓いたりしても仕方がない。休み休み、思うままの歩調で、歩くことを楽しめたらいいな、と思う。
読了日:10月26日 著者:武田 泰淳
アメリカの鱒釣り (1975年)アメリカの鱒釣り (1975年)感想
不思議なくらい悪意がなくて、もうちょっとの共感までいくことのできない寂しさ。夏の夜のような清涼感。苦い思い出の中にある小さな光。そのために、今この場面が特別のものになる、というような。細かい断章が連なる全体をちょっと離れて見たら、いつのまにか一つの大きな地図が出来上がっている。
読了日:10月21日 著者:リチャード・ブローティガン
パレスチナのちいさないとなみパレスチナのちいさないとなみ感想
……こうした酷い積み上げの先にある、戦争というより一方的な虐殺に思える現在。ここに何かしらの大義やら口実をくっつけて憚らないのは、すごく気持ちが悪い。笑えない現実をブラックユーモアを交えて笑い飛ばしてきたあの人この人、いまはどうしているだろう。
読了日:10月20日 著者:高橋 美香
一葉のポルトレ (大人の本棚)一葉のポルトレ (大人の本棚)感想
13の随筆中、もっとも心に残るのは、詩人の薄田泣菫によるもの。13人中、彼だけが一葉と交流はない。図書館でふと見かけた一葉の印象的な姿と所作とを書いているのだけれど、それが本当に鮮やか。ほんの一瞬の出来事ながら、読む者にとっても忘れられない絵になった。13葉中のどのポルトレよりも心に刻み付けられている。
読了日:10月18日 著者:薄田 泣菫、戸川 秋骨、幸田 露伴 他
無実はさいなむ (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)無実はさいなむ (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)感想
それなりに仲良く暮らしていた人たち、信頼していたはずの人たちの別の顔が見えてきたり、自分自身の気持ちに自信が持てなくなってきたり(思えば、みんな何かしら病的な暗いものを持っている)こつこつと築き上げてきたものが、今、一気に崩れ始めている気がしたり……疑いと罪の意識とが、ぐるぐる、ぐるぐる。
読了日:10月16日 著者:アガサ クリスティー
秋の四重奏 (Lettres)秋の四重奏 (Lettres)感想
引退後の第二の人生の実体は、死までの隙間をどのように埋めるか、という問題への取り組みだった。本人が認めようが認めなかろうが、高齢者の仲間入りをしてしまったのだ。寂しさと不安が押し寄せてくるが、そうなのだろうか。やがて気がつき始める。曇天と思っていた空の色は無限に変わっていくものだと。
読了日:10月13日 著者:バーバラ ピム
博物館の少女 騒がしい幽霊博物館の少女 騒がしい幽霊感想
主人公イカルの後見人・登勢の言葉ではないが、イカルは人に恵まれている。それは確かにイカルの才能なのだろう。明治16年ごろの上野界隈の明るい活気が、明治16年ごろの上野界隈の明るい活気が、イカルの気性と通じ合う。秋の終りから年が明けるまでの物語。物語の終りには、あちこちから、少し早い春の匂いが、色が、滲み出てくる。
読了日:10月10日 著者:富安陽子
終わりのない日々 (エクス・リブリス)終わりのない日々 (エクス・リブリス)感想
当たり前が通用しない時代、環境で、ひたすらに自らの当たり前を守ろうとする人びとがかっこいい。ただ、トマスとジョンに育てられたインディアンの娘、健気で聡明なウィノナのその後が気にはなるが、「終わりのない日々」のなかで、どうかこの「愚か者の天国」が長く続きますように。
読了日:10月07日 著者:セバスチャン・バリー
大つごもり・十三夜 他五篇 (岩波文庫 緑 25-2)大つごもり・十三夜 他五篇 (岩波文庫 緑 25-2)感想
巻末の解説に、「物語のいたるところに仕掛けられた一葉の『悪意』」という言葉をみつけて、はっとした。悪意は誰に向けられているのだろう。主人公ひとりひとりを孤立させる世の中だろうか。それとも彼女たち自身にだろうか。もしかしたら、一葉の悪意は、作中人物たちを通して一葉自身に向けられているのではないか、とも思う。
読了日:10月05日 著者:樋口 一葉
にごりえ・たけくらべ (岩波文庫 緑25-1)にごりえ・たけくらべ (岩波文庫 緑25-1)感想
吉原を囲むお歯黒溝には黒い水が流れる。溝には跳ね橋が架かっている。ひとびとのあいだにも見えない溝と橋とが幾重にもかかっている。子どもらはそれぞれの渡るべき橋を渡っていく、明るい側から暗い側へと。最後の「水仙の作り花」は涼しく明るい。それだけに身のまわりの暗さが際立つ。
読了日:10月03日 著者:樋口一葉
おばあちゃんのにわおばあちゃんのにわ感想
黙って手渡されていく人生を無言のキスとともに、小さな孫は、静かに受け取っていく。 受け取ったものは、孫の胸の内に生きて植物のように成長していく。それを確かめ合っているような、最後の二人が好きだ。シドニー・スミスの、爽やかな光に濡れたような絵がとてもいい。
読了日:10月01日 著者:ジョーダン・スコット

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