5月の読書

5月の読書メーター
読んだ本の数:14
読んだページ数:3700
駱駝祥子―らくだのシアンツ (岩波文庫)駱駝祥子―らくだのシアンツ (岩波文庫)感想
彼から奪っていった連中は、身勝手だが悪意の塊というわけではなかった。あの人もこの人もちらちらと弱みが見え隠れして彼(彼女)もまた、犠牲者だったのだと感じる。町の下層部でやっと生きている人たちの、不運を嘆く声、呪う声、やけっぱちな明るさや無責任さが、都の独特の華やぎになっているようだ。
読了日:05月30日 著者:老 舎
一緒に生きる 親子の風景 (福音館の単行本)一緒に生きる 親子の風景 (福音館の単行本)感想
自分が子どものとき、子どもと過ごしたときなど、恥ずかしさや申し訳なさ込みで懐かしい。つまらないと思っていたものが実は宝だったと気がついたり、物語や詩のなかには、こんな勿体無い場面がさりげなく(読み飛ばしてもいいんだよ、と言わんばかりに)置かれていたり。懐かしさだけに収まらない発見がたくさん。
読了日:05月28日 著者:東 直子
耳ラッパ―幻の聖杯物語耳ラッパ―幻の聖杯物語感想
これは、きっと反乱なのだ。既製品のなにやらに対する。でも、マッチョな反乱ではなく。武器は切っ先鋭い刃物でも飛び道具でもなく。七十代以上の婆たちが、しっかり崩れた認知をもって立ち向かっていくのだから、最高に愉快だ。老婆たちの朗らかなこと。最初で最後の人類みたいな顔して。最強だ。
読了日:05月26日 著者:レオノーラ キャリントン
見知らぬ友 (世界傑作童話シリーズ)見知らぬ友 (世界傑作童話シリーズ)感想
ほとんどの物語は、ささやかな日常の延長線上にある。といっても、ある物語は独裁政権・戦時下での息をひそめるような暮らしであり、不思議な出来事がちょこちょこ起こっていたりする。それでも主人公たちにはそれが日常。なんでもない日常の物語は何でもなく終わらない。どこのとんでもない場所に連れていかれるか予想できない。
読了日:05月24日 著者:マルセロ・ビルマヘール
長谷川四郎 鶴/シベリア物語 (大人の本棚)長谷川四郎 鶴/シベリア物語 (大人の本棚)感想
戦争の奴隷に変えられてしまった人たちの姿が目に焼き付く。茶色の平原のなかにただ一羽の白い鶴の姿(『鶴』より)、ぼうぼうの髪と髭の間から覗く青い目(『赤い岩』より)、それから、騎乗で去っていくモンゴルの人の姿(『ナスンボ』より)などが、浮かび上がってくる。
読了日:05月22日 著者: 
青いパステル画の男 (新潮クレスト・ブックス)青いパステル画の男 (新潮クレスト・ブックス)感想
最後のあれ――あれをどう考えたらいいのか。何もかもがひっくり返りますよ。これがもう一つの幕あけですよ。の狼煙が上がったんじゃないか、と思っているのだけれど。終わりだけれど、これが始まりかもしれない。なんとなくだけど、ノックの音が聞こえるような気がする。二回。
読了日:05月20日 著者:アントワーヌ・ローラン,吉田 洋之
死との約束 (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)死との約束 (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)感想
砂漠、洞窟、岩山……。オリエントの独特の風景が広がる。彼女は殺されたのだろうか?辿り着いたのは意外な真相。こちらの予想をばっさりと裏切ってくれた。後味は、おかげさまで悪くはなかったけれど、なんだか置いてきぼりにされたような気持ちだ。ちょっと作者がうらめしい。
読了日:05月16日 著者:アガサ・クリスティー
夕霧花園夕霧花園感想
収容所時代を引き摺り、いまだになにかに囚われたままに見えるユンリンの解放の物語であり、伝説の庭師の謎を追う物語でもある。アリトモとともに歴史を刻み、忘れられてもなお秘密を抱いて黙りこんでいる庭が、まるで生き物のようだ。実際に、マレーシアの山中深く、「夕霧」という孤高の庭が、存在しているように思えてくる。
読了日:05月14日 著者:タン・トゥアンエン
ワンダーランドに卒業はない (こどものみらい叢書)ワンダーランドに卒業はない (こどものみらい叢書)感想
この本は子どものための読書案内ではなく、大人だからこその楽しみ方、読みどころを知らせてくれる。よく知っている本と思っていたけれど、中島京子さんの文章を追っていると、あの本のどこにそんなことが書いてあったのだろう、と慌てたり、あの場面はそんな風に読むのか、読めるのかと、本の全く新しい横顔に気づかされる。
読了日:05月12日 著者:中島 京子
字はうつくしいーわたしの好きな手書き文字 (たくさんのふしぎ2023年2月号)字はうつくしいーわたしの好きな手書き文字 (たくさんのふしぎ2023年2月号)感想
手書き文字といえば、上手・下手くらいしか判断の基準がなかった私には、この本は本当に目から鱗だった。あちらからこちらから思いがけない扉が開いたような解放感を味わっている。ずっと聞こえていた周りの音が、それぞれ名前の違う鳥の声だと気がついたような感じ、といったらいいだろうか。文字の見方が変わる。
読了日:05月10日 著者:井原奈津子
月が昇らなかった夜に (ハヤカワepi ブック・プラネット) (ハヤカワepiブック・プラネット)月が昇らなかった夜に (ハヤカワepi ブック・プラネット) (ハヤカワepiブック・プラネット)感想
大量の言葉の間に隠れた宝を探す遍歴だ。散々惑わされ、ふりまわされ、その合間にちょこっとあらわれる言葉に「あれ」と思い、愕然とし、ため息をつく瞬間瞬間が、巻物より大きな宝だった。言葉の海を旅することは生きた人たちの思いをたどる旅だった。引き裂かれた幻の宝は、どうでもよくなってしまう。
読了日:05月09日 著者:ダイ シージエ
カメラにうつらなかった真実 3人の写真家が見た日系人収容所カメラにうつらなかった真実 3人の写真家が見た日系人収容所感想
国の法を無視して、自国の国民の権利を奪い去ることを、異常とは思えなくなるのが戦争なのか。収容所で生き延びた人々への敬意と、それから、この集団ヒステリーのさなかに、それは間違っている、と声を上げ続けた人や、記録を残そうと努めた人への敬意をこめて、私たちは今、どういうことを警戒しなければならないか考えなくては。
読了日:05月06日 著者:エリザベス・パートリッジ
父から娘への7つのおとぎ話父から娘への7つのおとぎ話感想
父が娘のために遺した七つのおとぎ話をヒントに、娘レベッカは失踪した父を探す。レベッカの物語は、親を求めていく物語であるが、親から離れていく物語でもあった。巡り巡って、(親たちを含めて)多くの出会いの物語、出会い直しの物語であった。こどもが大人になることを喜ばしく謳いあげた物語、とも思った。
読了日:05月04日 著者:アマンダ・ブロック
小屋を燃す (文春文庫 な 26-24)小屋を燃す (文春文庫 な 26-24)感想
今生きていることが死ぬ覚悟を決めていく道すじの一過程と、余裕をもって了解していく。夕日に向かって小便をしながらの、丁さんの言葉「浄土だなあ」が、いつか「私」が惹きつけられたシスレーの絵の中の、空の青に繋がる。機嫌よく歳を重ねていく人たちにとって生と死の境は、こんな感じなのかもしれない。
読了日:05月02日 著者:南木 佳士

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