12月の読書

12月の読書メーター
読んだ本の数:18
読んだページ数:5427

楽園のむこうがわ楽園のむこうがわ感想
左右のページの二人のタイプの違う青年の家づくり。左ページの物語だけなら、森のはずれに小さな家が建つ、心楽しい絵本と思ったはず。右ページの物語だけなら、一つの町はこのようにして生まれるのだね、と楽しく読んだことだろう。左右に二つ並べると、心はザワザワしてくる。
読了日:12月30日 著者:ノリタケ・ユキコ,椎名 かおる
シタフォードの秘密 (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)シタフォードの秘密 (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)感想
始まりは高齢術のテーブル。雪に閉じ込められた田舎。意外だったのに、あの人が犯人だとわかったときには、ああ、やっぱり、と思った。丁寧に張られた伏線がきちんと回収された満足によるのかもしれない。すっきりと気持ちのよい終わり方であるのに、なんだか寂しい。このどんづまりのような田舎の冬景色のせいもあるかな。
読了日:12月28日 著者:アガサ・クリスティー
私の方丈記私の方丈記感想
著者の子どものころ住んでいたアパートの屋上に捨てられていたたくさんの畳を、子どもたちはカードのお城のように組み立てて小さな基地を作る。仲間たちが帰っていった後の誰もいない畳の小屋に、子どもの著者が一人きりで座るところ、好き。「仄暗くてせまく、懐かしい空間」に、読んでいる私も誘われてほっとしている。
読了日:12月26日 著者:三木 卓
うまやのクリスマスうまやのクリスマス感想
さて、これはいつの昔の物語だろう。クリスマスの「むかし」は、私たちに手が届く姿になって現れる。なんてしずかで、満ち足りているのだろう。いい夢をみているみたいだ。私は何を読んだのだろう、見たのだろう。どこの街の家にも村の家にも、たとえ馬屋がなくたって、今夜、旅人たちは訪れる。
読了日:12月24日 著者:マーガレット・ワイズ ブラウン
山のクリスマス (岩波の子どもの本)山のクリスマス (岩波の子どもの本)感想
お母さんを残して初めて一人で出かけて行くハンシは最初少し泣きたくなったけれど、帰るときには、山の家族と別れるのが辛くなっている。町に帰らなければならないことを嘆くハンシに、おじさんは、夏の山の楽しさを話して聞かせる。ハンシが過ごした冬も、これから迎えるはずの夏も、ため息が出るくらい素敵だ。
読了日:12月24日 著者:ルドウィヒ ベーメルマンス
モスクワの伯爵モスクワの伯爵感想
ホテルは、モスクワ市街の縮図であり、外を吹く嵐を、渦中よりもはっきりと見極める窓でもあった。帝政時代の貴族と、ボリシェビキ政権の時代の権力者たちが、着るものが違うものの、そっくりに見えた逸話を思い出す。ホテルの屋根裏に軟禁された伯爵だが、まるで御殿の殿様のように優雅で自由なのが印象に残る。
読了日:12月22日 著者:エイモア トールズ
海のむこうで海のむこうで感想
物語というよりもある日の一場面の切り抜きみたいな感じで、物語の外でも(始まる前も後も)丸顔の素朴な人たちが、このまま地道に生活しているにちがいない。いつかゴフスタインが木ぐつの船に乗せて海に流したブーケが、「今日という日に」届いたようなうれしさ。丘の上の風車(ミル)が回り、鳥が飛んでくる。
読了日:12月19日 著者:M.B.ゴフスタイン
クリスマス・プディングの冒険 (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)クリスマス・プディングの冒険 (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)感想
お気に入りのクリスマス料理は、作者による「はじめに」だ。幸福なクリスマスの思い出があるって素敵だ。子どもたちが素晴らしいクリスマスを過ごせるように骨を折ってくれた大人たちの存在に思いを馳せることも素敵だ。それを語ってくれることで読む者も照らされるように幸福な気持ちを味わう。
読了日:12月18日 著者:アガサ・クリスティー
戦争と児童文学戦争と児童文学感想
児童文学の主人公はもちろん子どもだが、著者は大人たちについても(大人についてこそ?)多く語っている。大人の姿を追いかけると、作者の願いや訴えが見えてくる。この本を手に取ったなら、まず取り上げられている作品を一冊先入観なしに味わってみるのがいいと思う。それからこの本を読む。著者と読書会をしているような気持ちで。
読了日:12月16日 著者:繁内理恵
そばかすの少年 (光文社古典新訳文庫)そばかすの少年 (光文社古典新訳文庫)感想
子どものときにそばかすに出会った。初めて読んだ上下二段組の本に戸惑ったけれど、この本を読むことは大人になったようで誇らしかった。そのうちに何も考えず夢中になって読んでいた。大好きな本でした。今、古典新訳文庫ですごく久しぶりにそばかすに再会して、子どもの頃の読書の嬉しさを思い出しています。
読了日:12月14日 著者:ジーン ストラトン・ポーター
私の釣魚大全 (文春文庫 か 1-2)私の釣魚大全 (文春文庫 か 1-2)感想
私は釣りをしたことはないけれど釣り人の話は好きだ。軽い下ネタなどで笑わせもするが、一方で(同時に?)おおらかなロマンチックがあるのが好きだ。夢中で釣っているように見えるが、魚が釣れる川や池が住まいの周りからはどんどん姿を消していくことを嘆いてもいる。1968年に。
読了日:12月12日 著者:開高 健
「五足の靴」をゆく: 明治の修学旅行「五足の靴」をゆく: 明治の修学旅行感想
著者も、五足の靴を追いかけて、九州を旅する。五人の生い立ち、五人の立ち寄り先の歴史・地理・風俗などをからめて、著者自身の一足の靴の紀行文にもなっている。五人の後ろに立つ森鴎外の幻。隠れキリシタンのこと。五足と著者との間に横たわる戦争と原爆。変わらないこと、すっかり変わってしまったことなど。
読了日:12月10日 著者:森 まゆみ
オーギー・レンのクリスマス・ストーリーオーギー・レンのクリスマス・ストーリー感想
「まんまと嵌る」……「嵌る」の、入れ子細工なのだ。そして「誰か一人でも信じる人間がいるかぎり、本当でない物語などありはしないのだ」という言葉が、たくさんの言葉の羅列のなかから浮き上がって来てすうっと胸に落ちる。それなら嵌ってみようじゃないの、素直に。入れ子のいちばん外側での読者は気持ちよくつぶやこう。
読了日:12月08日 著者:ポール オースター,柴田 元幸,タダ ジュン
黄色い夏の日 (福音館創作童話シリーズ)黄色い夏の日 (福音館創作童話シリーズ)感想
不思議だけれど、不気味ではない。物語を夢中で追いかけながら、同時に、急がなくていいと思ってもいる。この雰囲気に酔い、ここに私はまだしばらく留まっていたいと思うから。かわいらしいだけでも、美しいだけでもない。ましてユメユメしいとか。ほんの少しだけの毒をたらすとこの景色はこんなにも忘れがたい色合いを見せるのだ。
読了日:12月07日 著者:高楼 方子
【2021年本屋大賞 翻訳小説部門 第1位】ザリガニの鳴くところ【2021年本屋大賞 翻訳小説部門 第1位】ザリガニの鳴くところ感想
ミステリで、少女の成長の物語で、差別の物語でもあり。湿地が、長い年月にわたり、孤独な少女を、守り、育て、教育した。湿地は酸鼻な泥の世界でもある。町の暮らしに馴染んだものには受け入れがたいこともあるけれど、それでも、そこは再生につながる場所なのだ。
読了日:12月06日 著者:ディーリア・オーエンズ
ぼくのなかの木ぼくのなかの木感想
始まりのことばは、「ぼくのからだのなかには 木がいっぽん はえてる」言葉が祈りみたいに思えてくる。「ぼく」の木にもいつかりんごがなる。小鳥もりすも虫たちも喜んで集う木になるように。風に吹かれ、雨を受け、日陰を作る木になるように。大きく育ちますように。
読了日:12月05日 著者:コリーナ・ルウケン
新版 雪に生きる新版 雪に生きる感想
スキー界の先駆者、猪谷六合雄。常に発見したり考え出したり、実現に向けて努力する人だった。世間からどう思われるかということよりも自分にとって意味あることに、思う存分夢中になった。その結果が後に名前とともに残るなんて考えてもみなかったんだろうけれど。遊んで遊んで遊び倒した人生、と(敬意をこめて)言いたいと思う。
読了日:12月03日 著者:猪谷 六合雄
愛の旋律 (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)愛の旋律 (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)感想
クリスティーがメアリ・ウェストマコット名義で発表したこの作品は、ミステリでもスリラーでもない。読み応えのある「文学」でした。逃げてもにげても追いかけてくる恐ろしい「獣」。ことに、激しい苦痛を経験し、ずたずたにされ、むさぼり食われてしまっても、やっぱり、幸福だったのだと思うから、なおさら恐ろしい『獣」。
読了日:12月01日 著者:アガサ・クリスティー

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