9月の読書

9月の読書メーター
読んだ本の数:8
読んだページ数:1885

恥さらし (エクス・リブリス)恥さらし (エクス・リブリス)感想
マジックリアリズム的な場面はひとつもないが、どこにでもありそうな風景や出来事の羅列が、非現実の物語よりも謎めいていて不思議だ。物語の煙に巻かれながら、あの場面この場面が、謎の風景画になって心に残る。『テレサ』が一好き。本当は何が起こっているのかわからないのに、すっぱりと解放されたような気持ちになる。
読了日:09月28日 著者:パウリーナ・フローレス
ポール・ヴァーゼンの植物標本ポール・ヴァーゼンの植物標本感想
百年以上前の押し花と、名前しかわからない採取者と、バス待ちの骨董店での薀蓄話と。美しい押し花の画集(写真集)のつもりで手にとった本だったのに、読み終えてみたら、全く違うものに変わっていた。物言わぬ草花が、自分たちだけが知っている思い出を語っているようだ。聞く耳を持つ者だけに聞こえる声で。
読了日:09月25日 著者:ポール・ヴァーゼン,堀江 敏幸
ボタ山であそんだころ (日本傑作絵本シリーズ)ボタ山であそんだころ (日本傑作絵本シリーズ)感想
(大人の目から見たら)危険で、ちょっとハードルの高い遊びを、夢中で遊ぶ。すっかり大人の目線で、はらはらして見ているこちらを振り切るように、のびやかに手足をぐんとのばして跳ぶ少女たち。ここには、親の仕事も、家庭の事情も何もない。少女たち、このまま、大きな鳥になって、いっしょに飛んでいきそうだった。
読了日:09月15日 著者:石川 えりこ
まっくら: 女坑夫からの聞き書き (岩波文庫 緑 226-1)まっくら: 女坑夫からの聞き書き (岩波文庫 緑 226-1)感想
労働の過酷さ、無残さ。事故で簡単に命を落とす。女たちの、寸切れになってしまった言葉は、その外側に、言葉にならない何億倍の言葉があるようだった。その一方で、どん底で生きる女たちの矜持がまぶしかった。「働く、ということがどのような非人間的なものであっても、そのことでつながっていた人びとの世界を持っていました」
読了日:09月12日 著者:森崎 和江
長いお別れ (文春文庫)長いお別れ (文春文庫)感想
認知症という病気を「長いお別れ」というのだそうだ。なんて残酷で、なんて悲しい言葉だろう。昇平が帰りたかった場所は、別れつつある過去の自分自身だろうか。妻の曜子の言葉が心に残る。「この人が何かを忘れてしまったからと言って、この人以外の何者かに変わってしまったわけではない」
読了日:09月07日 著者:中島 京子
長いお別れ (ハヤカワ・ミステリ文庫 7-1)長いお別れ (ハヤカワ・ミステリ文庫 7-1)感想
これは、短いさよならと長いさよならについての物語といってもいいかもしれない。さよならに、死が関係するかどうかは、もしかしたらそれほど重要なことではないのかもしれない。そして、そんなふうに思ってしまうような「さよなら」が、読み終えたあともなお、胸に居座る。ちょっと忘れられない読後感だ。
読了日:09月05日 著者:レイモンド・チャンドラー
おやどのこてんぐ (こどものとも2022年10月号)おやどのこてんぐ (こどものとも2022年10月号)感想
たった一人で、おやどの襖の中にいたこてんぐは、ほんとは、さびしかったのではないか。強がりのさびしんぼうだったのではないか。いたずらするたび、しゅじんがなにかしら答えてくれる(?)のが、うれしかったのかもしれない。いまはどうしているのかな。いつか、このこてんぐも大天狗になるのかな。
読了日:09月03日 著者:朽木祥
鳥が教えてくれた空 (集英社文庫)鳥が教えてくれた空 (集英社文庫)感想
興味深い話題はつぎからつぎに。どの話題も、わたしは、初めての感覚が開かれていくような気持ちで読んだ。四歳で失明している。だけど、読んでいるとそれを忘れる。いいえ、そうじゃない。目だけで見たのでは到底見えない、五感を使って見る、はるかに豊かな世界がある事を知らされた。著者が見ているのは、そういうものだった。
読了日:09月02日 著者:三宮 麻由子

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