4月の読書メーター
読んだ本の数:14
読んだページ数:4570
タフィー (STAMP BOOKS)の感想
暴力の恐怖から逃げ出した子と、日々忘れていくことの恐怖と暮らしている老女とは思いがけず似ていた。すごいことじゃないだろうか……周囲の手を借りなければ一日だって無事でいられない認知症の老女が、その日その日を生きている。それだけで、ひとりの子どもを(それから、たぶん自分自身を)助けることになったとしたら。
読了日:04月29日 著者:サラ・クロッサン
惑星の感想
「それぞれのひとりひとりが、くっつき過ぎないという引力を持って、まわってくれる幾つかの人の惑星を持つ、独立した太陽であること」ふと身内に明るい光が灯ったような気がする言葉だった。嘗て太陽だった子どもは大人になり、子どもが太陽になる絵本をたくさん書いたのだと思う。
読了日:04月27日 著者:片山 令子
マーティン・イーデン (エクス・リブリス・クラシックス)の感想
一途に夢見、書き続けるマーティンを追いかけながら、ほんものの文学ってどんなものだろう、と思う。無責任で下劣な出版業界や、読書人たちを嫌ってくらい見せられた。文学修行時代の友人プリセンデンはいったい何者だったのだろう。読み終えた今、プリセンデンは、数年後の未来からやってきたマーティン自身のような気がしている。
読了日:04月25日 著者:ジャック・ロンドン
ラオス 山の村に図書館ができた (福音館の単行本)の感想
図書館たちあげ・継続の記録は著者と村(ことに老人・こども)との交流の記録でもある。山の村の図書館は「民族の伝統や文化の継承に役立つ図書館」であり、村に「これまでとは違う価値観を外から持ち込むことでもある」図書館は「これまでの価値観を壊すことに一役買ってもいる」。様々な課題に立ち止まりながら図書館は育っていく。
読了日:04月22日 著者:安井 清子
かたつむりとさる―ラオス・モン族の民話 (こどものとも世界昔ばなしの旅)の感想
とんちを働かせて、弱くて小さいものが強いものを出し抜く、モン族の民話。難民キャンプのモンの子どもたちの手による刺繍絵本。伸びやかな図案、几帳面に隅々まで細かく丁寧に刺してあるページも、細かいことは気にせずにおおらかに刺したのだろう、と思うようなページも。寄り集まった子どもたちのくすくす笑いが聞こえてくるよう。
読了日:04月21日 著者:
ジェイミーが消えた庭の感想
(大人から見たら)犯罪と紙一重の不快なゲームなのに、なんでこんなに気持ちがいいのだろう。どこにも繋がらない、そこだけの閉じられた世界の冒険。決まりきった学校と家との往復の間にある隙間の風。いたらない「ぼく」を押し上げるかのように、思いもかけず差しだされた、さまざまな手に、胸がいっぱいになってしまう。
読了日:04月19日 著者:キース グレイ
ぼくはただ、物語を書きたかった。の感想
困難な日常と、美しい故郷との別離との間で、紡がれた言葉、物語。その一言一言が宝と思う。いつか、ラフィク・シャミ自身による生の語りや朗読を聞くことができたらいいのに。(言葉は一言もわからないだろうけれど、それでも……。きっと、楽しめると思っているのだ)
読了日:04月17日 著者:ラフィク・シャミ
邪悪の家 (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)の感想
ポアロはずっと五里霧中。犯人だけが伸びのびと動き回っている。ひっくり返るのは最後の最後。ずっと停滞していたぶん、事態が変わるとなると、派手にぱたーんとひっくり返る感じ。一番重要な事項は、最初から見えていたじゃないか、と気がついたとき、騙されたことも、騙しから解放されたことも、気持ちよいくらいの驚きだった。
読了日:04月15日 著者:アガサ・クリスティー
黄金列車 (角川文庫)の感想
理不尽な命令や裏切り、公然の横領、武力による脅し。その都度の官吏たちの駆け引きが見もの。武器をとらず、血を流さず、怪しい輩を退ける文人たちの手腕に舌を巻く。とはいえ、正義、誠意、責任……重たい言葉が頭に浮かんでくるたびに、誰に対しての?と思う。列車のまわりを飛び回る赤毛の少年の一団が、鮮やかに心に残っている。
読了日:04月14日 著者:佐藤 亜紀
緑の天幕の感想
「文学っていうのは、人間が生き延び、時代と和解するのを助けてくれる唯一のものなんです」その先にどんな道が待っていたにしても、彼らが文学と出会えてよかった。大きな天幕の前にたくさんの人が順番を待って並んでいる。ここに国も時代もない。 味方になり敵になりした人々も、この天幕の手前で等しく並んでいる。
読了日:04月12日 著者:リュドミラ・ウリツカヤ
フレディ・イェイツのとんでもなくキセキ的な冒険の感想
次々に忙しく場面が変わる三人の珍道中に何度も笑ってしまう。なんだ、このドタバタは。と思うが、ドタバタの下から沁みてくるのは、主人公の本当の気持ち。キセキってほんとうはどういうものだろう。……思うのだけれど、今、ここにいる人に出会えたこと、それこそが最大のキセキではないか。
読了日:04月07日 著者:ジェニー・ピアソン
黄色い星: ユダヤ人を守った国王とデンマークの人たちの物語の感想
これは、どんな信仰・信条をもっていようと、どんな地位にあろうと、まず、その前に、みんな、私もあなたも勿論、例外なく、(尊ばれるべき)ただの人なのだ、という確認であり、宣言なのだ、と思う。「黄色い星」は、歴史や伝説、絵本の枠を超えて、世界中の、善良な人びとの誇らかな意志表明でもあると思う。
読了日:04月06日 著者:カーメン・アグラ・ディーディ
帰れない山 (新潮クレスト・ブックス)の感想
大きなうねりがあるわけではない。どちらかといえば単調で、ゆっくりとした物語なのだと思う。登場人物たちの純朴さ廉潔さ、不器用な誠意などを読んでいると、山の姿に相通じるものがあるような気がしてくる。希望も、喜びも、ままならぬ思いも、苦しみも、諦めも、山の威容にしんと吸い込まれていく。
読了日:04月05日 著者:パオロ コニェッティ
死人の鏡 (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)の感想
ポアロ物の中・短編を四つ。この舞台、この集団、この状況、他の長編で読んだことがあるぞと思うが、起った出来事も犯人も違う。トリックが凝っているわけではないが、ちゃんと本文のど真ん中を読んでいるつもりだったのに、気がついてみたら、自分が見ていたのは端っこのほうだった、ということに気づき、いつのまに!と驚かされる。
読了日:04月02日 著者:アガサ・クリスティー
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