5月の読書

5月の読書メーター
読んだ本の数:11
読んだページ数:2740

結婚/毒――コペンハーゲン三部作結婚/毒――コペンハーゲン三部作感想
トーヴェは、刹那的な欲求を満足させることに縋り付いているように感じる。消えた「抑圧」の場所をただ埋めていたように感じる。底なし沼に嵌って、徐々に深く沈んでいくようだ。サスペンスのよう、鬼気迫るようでもあり、そのくせ、不思議な長閑さ(時に喜びさえ)も感じる文章なのだ。
読了日:05月30日 著者: 
芝生の復讐 (新潮文庫)芝生の復讐 (新潮文庫)感想
期待と挫折、よりそいと孤独、寂しさ、懐かしさ。美しい、という言葉が不似合いな山にやってきて、思いがけない美しさをみつけて息を呑むような感じ。「ブローティガンはこの作品集でも、「アメリカとは何だろうか」と問い続けているようである」訳者あとがきの言葉。こんな言葉で、作品で、語られる彼のアメリカは幸せ者だ。
読了日:05月27日 著者:リチャード ブローティガン
ケンブリッジ大学の途切れた原稿の謎 (創元推理文庫)ケンブリッジ大学の途切れた原稿の謎 (創元推理文庫)感想
園都市ならではの環境、事情が絡み、事件には独特の雰囲気(良くも悪くも)と、それに伴う歴史がある。ケンブリッジには、女性を学生として受け入れながら、学位授与だけは長く拒み続けた歴史があること、女性たちがあたりまえのように、婚しても名前を変えない選択をし始めていることなど、興味深い。
読了日:05月25日 著者:ジル・ペイトン・ウォルシュ
サキの忘れ物サキの忘れ物感想
九つの物語の主人公たちは、心に刺さったままのトゲを抜くこともできずに(あまりに小さいので見過ごしたまま)過ごしてきたのかもしれない。本でも、想像の友だちでも、ラジオでも聞くように周りの人の声を聞くことでも……些細な何かを仲介にして、気がつくこと、何かのきっかけになることもある。それは少し元気になる話なのだ。
読了日:05月22日 著者:津村 記久子
星と嵐 (ヤマケイ文庫)星と嵐 (ヤマケイ文庫)感想
私は山のことは何も知らない。それでも、山に挑む著者の深い喜びに共鳴している(したい)。より深い喜びを、何度でもまるで初めて出会うように確かめつつ歩を進めていく姿を読むことで、私も満たされていく。あいだ、あいだに見せられる光景の美しさが、どんなに楽しませてくれただろう。
読了日:05月20日 著者:ガストン・レビュファ
みずうみにきえた村みずうみにきえた村感想
(再)『この村にとどまる』(マルコ・バルツァーノ)を読みながら、この絵本のことを思い出していた。少女のサリー・ジェーンが夏の夜に、友だちと一緒に蛍をガラス瓶の中に捕らえて遊んだように、彼女の村も、湖という瓶の中に囚われ、ずっと解放を待っていたのだろうか。無数の光になって。
読了日:05月17日 著者:ジェーン ヨーレン
この村にとどまる (新潮クレスト・ブックス)この村にとどまる (新潮クレスト・ブックス)感想
次々に揺さぶられ、奪われ、そうなればなるほどに、からだの外に溶けだしていくものがある一方、内側に残り、硬く澄んでいくものがある。残るものは、表紙の写真、人造湖のまんなかに突き出るようにして残った鐘楼のようだ。言葉にならない言葉が沈黙の中で結晶していくようだ。
読了日:05月16日 著者:マルコ・バルツァーノ
本屋で待つ本屋で待つ感想
心に残るのは、待つという言葉と、聞くという言葉。聞くことも待つことも、生半可ではない。だから店も人も変わっていけたのだろう。いつのまにかそれぞれの壁をこえていく、幾人もの幾つもののエピソードに幸せな気持ちになる。著者は店の声を聞いている。店自身がなりたいものについて語り出すのを待っているようだ。
読了日:05月13日 著者:佐藤友則
小さなソフィーとのっぽのパタパタ小さなソフィーとのっぽのパタパタ感想
ソフィーは成長している。「人生でなにが手に入るか」ちゃんとみつけたのだから。それは、彼女の凱歌のよう。小さな子どもが楽しめる童話であるが、そのわりに厳しいお話に驚く。思いがけないことも起こるが、受け止められる場所へ導かれている。作者から若い読者に寄せる、深い信頼と励ましでもあると思う。旅は終わらない。
読了日:05月10日 著者:エルス ペルフロム
パイド・パイパー - 自由への越境 (創元推理文庫)パイド・パイパー - 自由への越境 (創元推理文庫)感想
戦争の敵地で、故郷へ向けて子連れで旅することを最初は躊躇した老人ハワードが、後になればなるほど、積極的に子の責任を受け入れるようになる。当初より若々しく見えてくる。旅する老人を支えたのが、遥か遠いところにいるわが子たちに対する信頼だったと思う。希望という言葉に代えて。
読了日:05月05日 著者:ネビル・シュート
樹影譚 (文春文庫 ま 2-9)樹影譚 (文春文庫 ま 2-9)感想
艶かしくて、不気味だと感じるところもある。罠にかかったようで「しまった」と思うところもある。樹木の影の話ではなくて、人の話だった。人と、人の影の話。いつのまにか私自身も影になって、大きな流れに引き込まれている気持ち。物語が開かれているのは、罠を仕掛けて、のこのこと覗き込む人を待っているからかもしれない。
読了日:05月01日 著者:丸谷 才一

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