『ウィンダム図書館の奇妙な事件』 ジル・ペイトン・ウォルシュ

 

ケンブリッジ大学のセント・アガサ・カレッジには、正規の図書館のほかに、もうひとつ、十七世紀の大富豪によって寄贈されたウィンダム図書館がある。寄贈者の遺言により、奇妙で面倒な規則に縛られた図書館である。
このウィンダム図書館で、ある朝、一人の学生が死んでいるのが発見されるが、これは事故死なのか、殺人なのか……。
さらに、このときから、(この件について何かを知っているはずの)被害者のルームメイトの姿が消えてしまうのである。
探偵役は、学寮付きの保健師イモージェンで、彼女は友人の刑事部長マイクに協力する、という形で事件について調べ始める。


大学の独特の雰囲気が伝わってくる。
教授たち、さまざまなタイプの学生たちの活気あるやりとり。
園都市の隅々まで美しい描写に、心弾む。
学生たちが下宿するイモージェンの小さな家は、居心地良さそうだ。話しやすいイモージェーンの性格に惹かれて、来訪者も後を絶たなない。


消えた学生の友人たちは、互いに結束し合い、牽制し合い、知っていることを隠している。警察への反抗心もあり、協力を求めるのは難しい。
彼らの気持ちをイモージェンはどのようにして開いていくのかが一つの見どころである。
事件は、警察に委ねたいものと、警察が入り込むべきではないものなどが、複雑に絡み合いながら、多重的な真相に向かっていく。


学問の府で、知識を硬化させたがり、科学の門戸をせばめたがる人たちも出てくる。科学や叡知が、あろうことか理性の進歩を阻むこともあるみたい。
そうした凝り固まった考えがまわりまわって、物語に絡んでくる嫌らしさ。


それであっても、ラストに灯された小さな光は、ひときわ明るい。あんなに小さいのに。作者がもともと児童書の作家さんであることにもよるかなあ、と思いつつ、ほっとしながら読み終えた。