『どこまでも食いついて』 ジャナ・デリオン

 

『ワニの町へ来たスパイ』から始まる『ワニ町』シリーズ、五冊目。


諜報員としての教育と訓練だけを徹底して受けて育てられた純粋培養の諜報員フォーチュンは、ミッション中にへまをして、身を隠すために偽装して南部の田舎町シンフルに潜伏する。
経歴ゆえの年齢に似合わない純情さがほほえましいのだけれど、同時に、自分が何ものなのかわからなくなっていくフォーチュンの今後が大いに気になる。


元気な(どころではない凄腕の)おばあちゃん(?)二人組とフォーチュンとがタッグを組んで、いくつもの事件を解決してきたが、何より楽しいのが、三人の弾んだり惚けたりの会話で、何度も吹き出す。


静かな田舎町というのに、フォーチュンがこの町にやってきてから、なぜか殺人事件のオンパレードなのだ。
「最近この辺じゃ奇妙なことが続いてるけどね、みんな自然に解決するから」
つまり三人組が陰でなにかやっているということだ。


もうひとつ、舞台であるルイジアナ南部の田舎町シンフルの魅力。
ワニがうろつくバイユーと湿地に囲まれた独特の雰囲気をもつ町。
教会を中心にして、まるで町中親戚か幼馴染と思うほどの顔見知りたち。
次々に出てくる南部独特の料理がどれもおいしそう。
そして、個々人が抱く北部人に対する微妙な感覚もまた、町の空気に溶け込んでいる。


フォーチュンの恋人(?)カーター保安官助手が、何ものかに銃撃される。危ういところでフォーチュンに救い出されるのだが、一時的な記憶喪失で、誰に撃たれたのかも、どんな事件を追いかけていたのかも彼は思い出せない。
事件解決を決意する湿地三人組だが、町に現れた政府機関の二人組、事件を丸ごと浚っていってしまう。二人のうちの一人は、以前フォーチュンと同じミッションで協力関係にあった人間だったから、下手に動けば彼女の偽装が剥がれてしまう危険がある。
さらには、フォーチュンを追う武器商人の影もちらほら。
さらにさらに、この町の町長選挙の行方が気になる。この町を二分して争う二つの婦人会による勢力争いでもあるから。
さてどうなるのか。
そして、どんどんよい感じになっていくお似合いの二人。偽りの身分が、ますます気になる。