巻頭、16ページの宮崎駿のカラー口絵(コミックエッセイ)が良かった。本文のガイドとして以上に、読み応えのある小品という感じ。
『幽霊塔』に魅せられ夢中になって読んだ少年時代の思い出、江戸川乱歩が『幽霊塔』を書いた背景(原案になった作品など)、それから、宮崎駿さんによる主人公らのキャラクターやら絵コンテなども載っていて、興味深いことこの上ない。
幽霊塔という塔の姿を想像力を駆使して幻想的な絵で見せてくれるが……気がついた。これは、ジブリ映画『君たちはどう生きるか』のあの塔の姿――
コミックエッセイでは『幽霊塔』の映画は作らないよと言っていたが、あの塔に、このような形で新しい命を注ぎ込んだのかな。黙って。それも素敵だ。
本文の江戸川乱歩の『幽霊塔』の始まりは、隠された宝物と幽霊の噂のある時計塔。江戸末期にこの塔を建てた大富豪は、塔に財宝を隠して、さまざまなからくりや迷路を、ひとりで作り続けたが、自分で仕掛けたトラップに迷い、二度と塔から出てくることができなかったとか。
この設定にも、映画『君たちはどう生きるか』との繋がりを思い、ああと声をあげそうになる。
宮崎駿さんは、通俗文化と名付けたいものがあるいう。「かしこくなるためではなく楽しみとヒマつぶしのためのあらゆるものを指す」と。「それでもこれはイイぞというもものがある」と。
『幽霊塔』を読みながら、それだ、と思った。
暗闇で輝くまがいものの宝石みたいな。ある種のまがいものには、本物とは別の魅力がある。それだからこその輝きに酔う。
因縁の歴史をもつ絢爛な時計塔、不気味な仕掛け屋敷「養虫園」、複雑な隠し部屋を擁した「先生」の屋敷……などなど、眩暈がしそうな不思議な建築物がつぎつぎ。
登場するのは、はっとするほどの美女。左手首を覆う手袋は何を隠しているのか。彼女の存在も来し方も謎だらけ。
主人公とともに追いかけているのは、時計塔の謎なのか、美女の秘密なのか、それとも昔の塔の殺人の謎か、庭先の首なし死体の謎か、わからなくなる。何かを捜しているのだけれど、いったい何を?
不思議な文章の香気に、あてられてしまったかもしれない。
物語の最後は大団円か? いいや、そんなことはどうでもいい。
ほら、迷路のゴールに辿り着いた時、ほっとするよりむしろここで終わってしまうことにがっかりして、もと来た道に戻りたくなるような、そんな気持ち。