『バグダッドの秘密』 アガサ・クリスティー

 

ロンドンの公園でちょっと話した青年に一目で恋をしてしまったタイピストのヴィクトリアは、彼を追って一路バグダッドまでやってきた。


力による至福千年期を目指す狂気の集団と、彼らのしっぽを掴み陰謀を食い止めたいイギリス諜報機関とが、人知れず戦ってきた。
その舞台が、今このとき、バグダッドにあった。近々、開催される東西の首脳会談を巡って、盛んな諜報合戦が繰り広げられている。
巻き込まれたヴィクトリアの天性の機転が幸いしたのか禍いしたのか、彼女は、この諜報戦に協力することになる。


ヴィクトリアは有能な職業人ではない。職業はタイピストであるが、仕事は雑で、まちがいだらけ。
彼女が得意なのは、嘘をつくこと。それもどうせなら人が驚くような大芝居がよい、という、とんでもない大嘘つきである。
職業意識も教養も期待はできないが、旺盛な好奇心、度胸と機転は、はちきれんばかり。


次々に重要人物が死ぬ。味方の間にスパイがいるのかもしれない。それは誰なのか。そして、敵の黒幕はいったいどこにいるのか。
誰もかれもあやしいのである。
人のよい主人公が、あの人にもこの人にも、自分の知っていることや考えた事をぺらぺら喋ってしまうので、はらはらしてしまう。
出し抜いたり出し抜かれたり、最後に笑うのは……もちろん主人公であるはず。だけど、大いに気をもまされる。
どんどん加速する物語に、駆け足でついていく。ゴールインするころには、主人公との別れが名残惜しくなっていた。