『かえりみち』 ブリッタ・テッケントラップ

 

最初は夕焼け。それから日が暮れて、空に月が昇り、夜が更けてくる。
ページをめくるごとに、刻々と移り変わっていく空の色の美しさに、見とれてしまう。
この本の夜は、賑やかだと思う。夜の音なんてひとつも書かれていないのに、とりどりの夜の色の中からは、星がまたたく音も、虫が羽を広げる音も、風が吹き始める音までも、混ぜ込まれるような気がする。


夜のなかをゆっくり歩いているのは、おおきなハリネズミと、ちいさなハリネズミ。ふたりは家に帰るところだ。
ちいさなハリネズミはページごとに立ち止まる。「ねえねえ、ちょっとまって」と大きなハリネズミに呼びかける。
どんどんしずんでいくお日さまが見えなくなるまでみていたい。
のぼってくる大きなおつきさまをながめていたい。
花のにおいをかぎ、ホーコーと鳴くフクロウをみあげ、ホタルを追いかけ、星の数を数えたい。
大きなハリネズミは、その都度、立ち止まる。ちいさなハリネズミが満足するまで。
この絵本が賑やかだ、と感じるのは、この立ち止まりのせいかな。
文章はとても静かでゆったりとしている。
立ち止まり、じゅうぶんにしずかにしたときに初めて感じるたくさんの気配がある。それを賑やかだと思うのかもしれない。昼間の太陽の下では気がつくこともない、夜にこそ目覚めるものたち、この豊かな色たち……。
夜が更けていく。数えきれない星たちはますます明るく輝き、昼間に眠っていたものたちが活動を始める。ここが夜眠るものたちの世界ではないことをしらせてくれるようだ。


これは「おやすみなさい」の絵本だ。
終わっていく一日を惜しみ、ねむさに抵抗する気持ちが半分。あとの半分は、自分を取り巻く世界のあれこれに送る「おやすみ」の挨拶みたいだな、と思う。
また明日。