『ようこそ森へ』 村上康成

 

村上康成さんの絵は不思議だな。
鳥も動物も、植物も、景色全体が、実像からかけ離れて、大きくデフォルメされているのに、リアルなものよりもずっとリアルに感じることがある。森の匂いがしてくるような気がするし、森のなかの生き物たちが、森といっしょに、生きて呼吸をしているような気がする。


表紙の鳥は、森のカケス。
カケスは、森にやってきたにんげんの家族のようすを高いところから眺めている。人間たちは、テントを設営して、キャンプをする。
絵本全体が、カケスの目線で、人間たちに話しかけるような言葉で、家族三人のキャンプの様子を描いていく。
おとうさんとおかあさん、男の子。三人の言葉はひとつも書かれていないのに、彼らの大きな、小さな驚きが伝わってくる。大きな自然のなかで、家族三人がきゅっとまとまって一緒にいる喜びも。
彼らが過ごした一日一夜が、「どうだ、いいところだろう」というカケスの声になる。


絵本を読んでいると、ああ、こんなキャンプがしたいなあ、と思う。いやいや、キャンプじゃなくてもいいのだ。カケスやほかの動物たちと同じように、人間もまた森の生き物なんだ、と実感できる時間があったらいい。そこにわずかな時間でもいいから、一緒にいられたらいいのになあ、と思う。


キャンプの間いつも、自分たちをじっと見ている存在を、男の子はなんとなく意識していたのだろう。
最後に、この森をもう立ち去る男の子が、木の枝にとまったカケスと、つかの間、まっすぐ見つめ合う場面が好き。どちらも大きな目を見開いて。
なんにも言葉はいらない。