『ヒルは木から落ちてこない。ぼくらのヤマビル研究記』 樋口大良;子どもヤマビル研究会

 

本のそでには、こんな言葉が書かれている。

>――君たちまちがってない? ヒルは木から落ちてくるよ。
「いいえ、落ちてきません。僕たちが調べた結果、落ちてくることはないと証明できたんです」


子どもヤマビル研究会、略してヒル研。
コーディネーターの樋口大良さん(先生)の呼びかけで発足したのが2011年。その後、二年の休眠期間を経て、本格的な研究活動に入る。毎年三~六名の、小中学生からなる子ども研究員が、ずっとヤマビルの研究を続けている。


ページをめくって、ぼてっと膨らんだヒルが素肌に貼りついた写真を見つけたとき、私は正直、ぞっとして、「無理だ」と思った。でも、読み始めたばかりの本だから、もうちょっと、写真に気を付けて読んでみよう、と気を取り直した。
そうしたら、あら、おもしろい。
読み終えるころには、「ヒル、めっちゃ、かわいいですよ」という子どもたちの気持ちが分かるような気がした。私は「ヒルがかわいい」とはまだ思えないけれど、「かわいい」という子どもたちが素敵だと思ったし、こんなにも夢中の子ども時代を持った彼らのことが羨ましくなってしまった。
ひとりの子どもは、こんな風に言う。
ヒル研のいいところは、その研究の仕方にあります。学校の理科の実験では、答えが決まっていて、実際にそうなるかを確かめるだけです。でも、ヒル研では誰にもわからないことを自分たちの手で発見していきます。そこがすごく楽しいです」


世の中には、ヒルについては常識だと思われていたことが沢山ある。
ヒルは木から落ちてくる」
ヒルは鹿や猪に運ばれて分布を広げる」
これらの常識を、子ども研究員たちは疑ってみる。それを確かめてみよう。採取、細やかな観察、大胆な実験(!)など、その研究の過程も楽しいが、いちいちの工程に取り組む子どもたちの生の声はもっと楽しい。
後方から必要な力を貸しながら、大きく見守る樋口先生という存在が頼もしくて、頼もしい大人の見守りのもとでは、子どもらがこんなに生き生きと自分の能力を開花させていくものか、と感動してしまう。
そうして、子ども研究員たちは、数々の試行錯誤を重ねながら、地道に成果をあげていく。
たとえば、冒頭に引用したように、彼ら、ほんとうに「ヒルは木から落ちる」は俗説であることを証明してしまったのだ。
俗説は強い。「そうはいっても木から落ちてくるよねえ」の声に、子ども研究員たちは、間違った常識をひっくり返すことの困難さを思い知る。
同時に、彼らのなかには大きな自信も生まれていたのだという。
「僕らが世の中の常識をひっくり返したんだ」


エピローグで樋口先生はこんな風に書く。
「自然界のすべての生き物はつながっていて、絶妙なバランスで共生している。どこか一つが崩れると全体が狂ってしまう。今、人間に一方的に被害を与えている生き物も、別のところでは重要な役割を果たしているのかもしれない」
そして、子ども研究員のひとりが、先生の言葉「自然の仕組みを理解するのに、いろいろなものに目を向けるのも一つの方法だが、一つのものを奥深くまで研究するのもよいことだ」をあげ、ここからヒル研が始まったのだ、という。
ヒル研の活動はこの先も続いていく。その記録もいつか読めたらいいな。