『キリン解剖記』 郡司芽久

 

哺乳類の首の骨(=頸椎)は、七個と決まっていて例外はないそうだ。きりんの首だって、あんなに長くて、自在に動かしているのにやっぱり七個なのだ。ほんとうに?
きりんの八つ目の首の骨(ほんとうは胸椎)を発見し、それが頸椎のように動かせることを証明したのが、郡司芽久さん。大学生の頃に始まり10年間で、三十頭のきりんを解剖してきた、きりん博士である。


解剖と研究(そして発見、証明)の道すじが、易しい言葉で書かれていて、私のようなド素人にもわかりやすく、おもしろかった。
でも、それ以上に、この本にわくわくしたのは、これが一つの青春記であり、夢追い人へのエールでもある、と感じたからだ。


第一志望の大学に入学した時、「この先40年以上もの長い時間を費やす職業を選択しなければならない」ことに気がついた著者は、漠然とキリンの研究者になりたい、と思ったのだ。子どものときからきりんが好きだったから。
だけど、どうやったらきりんの研究ができるのか皆目見当がつかなかった。
そんな著者に、大きな出会いが訪れる。


「人生において本当に大事な人間とは、どんな道を選んでも必ず出会う」とは、著者の恩師の言葉であるが、たぶん著者が、夢に向かってあらゆる方向にアンテナをはりめぐらしていなければ、これが出会いだということにさえ、気がつかなかったかもしれない。


出会いは、もちろん、まず人であるが、人だけにとどまらない。
きりんの何を研究したいのか、なかなか見えてこなかった著者が、研究の目的に出会えたのは、何十頭ものきりんの遺体と、こつこつと誠実に向き合ってきた、来る日も来る日も、があったからだろう。


著者の解剖に明け暮れる日々の記録には、明るい出口を信じて長いトンネルを手さぐりで歩く人にとっての、たくさんのヒントが隠されている。
「自分の力ではどうしても変えられないことは、きっと世の中にたくさんある。大事なのは、壁にぶつかったそのときに、手持ちのカードを駆使してどうやって道を切り開いていくかだ」