『深夜特急2ーマレー半島・シンガポール』 沢木耕太郎

 

 

インドのデリーからイギリスのロンドンまで乗り合いバスの旅をするのを目的にして、日本を出発した著者だった。
ほんの数日のつもりの香港が気に入って一か月も滞在して、やっとタイのバンコクへ。
マレ―半島縦断鉄道に乗り、途中下車を楽しみつつ、時間をかけて、マレーシアを横断して、シンガポールに。
全六巻の二巻まで読んで、まだまだ出発地点(のはずの)デリーは、はるか先だ。
「急ぐ必要はないのだ。行きたいところに行き、見たいものを見る。それで日本に帰るのが遅くなろうとも、心を残してまで急ぐよりはどれだけいいかわからない」
と著者はいう。また別の場面では
「旅をしているうちに(中略)得たものと失ったものがあるとすれば、まず失ったものは「日にち」だったかもしれない」
自分を捕らえている鬱陶しいものから一つ、解放されたような伸びやかさ。


金欠さえも、思いがけない出会いを運んでくる宝に変わる旅。
……とは言え、行く先々での物価の安さには仰天してしまう。所持金の額が、思わず何倍にも感じられるほどに。
町の片隅で暮らす人にとって、当時の日本は夢の国だった。
と同時に、激しい日本や日本の企業批判にも出会った。こういう言葉を日本はこの時に真摯に受け止めるべきだった……。


おもしろかったのが、ペナンの安宿(と思って泊まったら、案の定?売春宿だった)
ここも、ほんとうは二、三日で退散のつもりが、思いがけず長逗留してしまったのは、宿の売春婦たちやそのヒモ男たちとの交流が楽しかったからでもある。ついには支配人に「ここで働かないか」ともちかけられるほどに。


どこに行っても、印象に残るのは、人との出会いだ。それは筆者の人柄によるのだろう。
ことに社会の末端にいる人たちの朗らかさや逞しさが印象に残っている。


とにもかくにも到着したシンガポールで、著者は次の目的地に向けて出発しようとしている。次はいよいよインド、デリーに向けて一直線!……というわけではなさそうだ。