『普通のノウル』 イ・ヒヨン

 

チェ・ジヘさんは16歳のときに一人で子どもを産み、一人で子どもを育ててきた。
その子ノウルは17歳。ノウルの姉のように見える、若々しい母ジヘさんには、恋をして、普通に幸せになってもらいたい。ノウルはそう願っていたが、事態は、どうもノウルが考えていた「普通」とは違う方向に進もうとしている。
普通っていったい何なのだろう。


大切な人には、幸せになってほしい。でも、幸せって、あまりに漠然としている。おとぎ話のような究極の幸せなんて、あるわけないと知りながら願う、まあまあの「幸せ」をいいかえると「普通」という言葉になるのかもしれない。
ものすごく大きな、舞い上がるような幸福を諦めて、ちょっとはつまらないかもしれないが、大きな苦労や悲しみを回避できる道があるなら、それがよいのではないか。
誰かに普通に幸せになってほしい、と願うのは、そういうことだった。でも、ほんとうは、余計なお世話で、失礼な話でもあるよね。


いろいろな普通がでてきた。
ノウルの普通。ノウルの親友ソンハの普通。ノウルの母ジヘの普通。ソンハの兄ソンビンの普通。ノウルの友人ドンウの普通。
どの普通も、他の人にとっては、ちっとも普通じゃないかもしれない。誰かとかかわり合うとき、自分にとっての普通とは違う普通をどのように大切にできるのだろう。


普通に暮らしているつもりだったのに、どんどん狭いところに自分自身を追い込んでいたのに気がつかなかった、ということもある。
なにかを大切にしていたつもりが、ほんとうはぞんざいにあつかっていたっていうこともあるのだ。


自分を縛っているものが少しずつ消えて行く。伸びやかな気持ちに驚く。
ついつい誰かに普通の幸せを祈りたくなってしまうわたしだから、ときどき、ノウルたちに会いにこの本の中に帰ってくるのがいいかな、と思う。


シングルマザー支援施設のボランティア講師の言葉が好き。楽ではない道を歩こうとしている人たちへの言葉だ。
「……みなさんはだれよりもキラキラ輝いているんですから」