- 作者: トーベ・ヤンソン,Tove Jansson,下村隆一
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 1990/08/23
- メディア: 単行本
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森や湖、海。風。空。実り。
なかなか沈まない太陽の輝かしい夏。
ムーミンの世界からたちのぼってくる清々しい北欧の空気感や風景に憧れますが、
同時に、この美しい風景のなかにいつでも忍び寄り、住人達を包みこむ不穏な出来事や狂気じみたもの。
今まで読んだムーミンのどの物語にもきっとありましたっけ。
そうした自然や運命のいたずら(?)の中で、
徒に嘆いたり慌てたりおびえたり・・・ということが、不思議なくらいにないムーミン一家のすごさを、今度もまた再確認しました。
この本のなかでは、どこかの火山が噴火して、それが原因で、ムーミン谷は洪水に襲われるのです。
ムーミン一家は、避難するのですが、この避難がなんだかとっても楽しそう。
増えていく家族や、離散してしまう家族もいるのですが、
いつでもコーヒーカップが足りるかどうか気をくばるママの存在は、大きい。
「ここには、わけのわからないことが、いっぱいあるわ。だけど、ほんとうは、なんでも自分のなれているとおりにあるんだと思うほうが、おかしいのじゃないかしら?」
とムーミンママ。
どんな不遇なめぐり合わせの中でも、普通でいることや、誰に対してもwelcomeと心の扉をあけておくこと。
あるものをやりくりして、出会いを喜び、その時々に、生きていることを謳歌しているようです。
印象的なのは、水に浮かぶ劇場。
表紙の絵にもなっている、明るい夏の夕暮れに、海のように広がった水の上で、ムーミン一家が劇をします。
お客さんたちは小舟にのって、三々五々あつまってくる。小舟に乗って観劇です。
この雰囲気がすごくきれいで好きです。
スナフキンにとって公園番がどうして敵なのか。
『ムーミンパパの思い出』のなかで、ムーミン捨て子ホームを逃げ出したムーミンパパと森の子がだぶります。
スナフキンが助けた森の子たちと、ヨクサルと旅したムーミンパパと。
彼らの倫理観は、とても大きいのです。そして、彼らの考え方を聞いているとなんだか安心してホッとするような気がするのです。
ちっちゃな決まりごとに囚われて、もっともっと大切な大きなことがないがしろになったら、誰も幸せではいられませんね。
「たいせつなのは、自分のしたいことを、自分で知ってるってことだよ。」と、スナフキン。
最後に…スナフキンが日曜日にだけ吸うことに決めた特別のたばこにしみじみしてしまう。
大事件のなかでも肩寄せ合って運命に立ち向かうムーミンたちはすてきだけれど、
やっぱり本当に平和な夕暮にほっとして、ゆったりとくつろぐ結末にほっとします。
きょうは風も涼しい。