- 作者: トーベヤンソン,Tove Jansson,冨原眞弓
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 1992/06/05
- メディア: 単行本
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ムーミン童話全集の別巻となっているこの物語は、ヤンソンさんの処女作だそうです。
この物語で初めてムーミンの世界が描かれたのだそうです。
スニフとはこうして出会った、ムーミン谷にこうして落ち着いた、と、
当たり前に満喫していた物語世界の始まりを知ることができて嬉しかった。
そして、もともとムーミントロールたちがどんな場所でどんなふうに暮らしていたのか、
それが今の「家」につながった理由なども、ここで初めて知り、ほのぼのと笑ってしまった。
ヘムルやニョロニョロなど、のちのムーミン童話のおなじみたちも、すでに生きていました。
これは、第二次世界大戦のさなか、たのしい絵が描けなくなってしまったヤンソンさんがこっそりと書いたおとぎ話なのだそうです。
訳者あとがきで、このような事情を読みながら、わたしは、田辺聖子さんの「欲しがりません勝つまでは」を重ねていました。
ずっと小説を書き続けていた少女時代の田辺聖子さんは、
第二次世界大戦末期、どんどん追い詰められ、小説どころではなくなっていく暮らしの中で、
お姫様が出てくるおとぎ話を書いていたそうです。
あまりに惨たらしい現実の中で、おとぎ話は唯一の逃げ場だったのかもしれません。
そういうことを考えながらこの本を読めば、
戦時の重苦しさが、ムーミン母子の彷徨う太陽のない世界に繋がるような気がします。
無表情な顔で水平線にむかって旅をし続けるニョロニョロたちは、故郷を追い立てられて行く群像のようにも見えてくる。
洪水を避けて木の上で助けを待つ小さな動物たち、家を失って焚火をする人たちも、やっぱり戦争からの避難者のよう。
ひげのおじさんが招いてくれた明るく楽しい世界を去るときのムーミンママの言葉が印象に残ります。
「わたしたちは旅をつづけなければなりません。ほんもののお日さまの光のもとで、自分たちで家をたてようと思っているのです。」
小さな生きものたちが、満足して暮らすのに必要なものが、この言葉のなかに全部入っているような気がします。
これだけでいいんだなあ。これだけだけれど、どれもほんものでなければ意味がないんだなあ。
これだけを手に入れるために、小さな生きものは、冒険するのだなあ。
はじまりのムーミン物語では、ムーミントロールはほんとにまだまだお母さんに頼りっぱなしの子どもでした。
ムーミンママが、片手にムーミントロール、片手にスニフの手を引いて大活躍しています。
ムーミンも物語を重ねながら、成長したんだね。
大人になってからムーミンシリーズに出会いました。
初めて出会った『ムーミン谷の冬』から、長い時間をかけて一冊一冊大切に読みました。
これが最後の一冊でした。
これからは今まで読んだムーミンたちをゆっくり再読しながら味わおうと思います。