『父から娘への7つのおとぎ話』 アマンダ・ブロック

 

二十年前に失踪した俳優レオの行方を捜して、記者エリスが、レベッカを訪ねてきたことが始まりだった。レベッカはレオの娘であるが、幼い頃に自分と母を置いて家を出て行った父には、その後一度も会ったことはない。父を知る親族は、ろくな男じゃない、としか言わない。いまだに父を許すことのできない母は、レベッカが父について聞こうとしても、話をはぐらかすばかりだ。
父がどんなに酷い人間か聞かされて育ったレベッカだったけれど、ぼんやりとした父の思い出は、幸せなイメージと結びついていた。
父のことを知りたいレベッカに、祖母は、レオから預かった本(父が娘のために書いた本)を手渡す。
レベッカは父の居場所を探そうと決意する。記者のエリスと協力しながら。


父の本には、七つのおとぎ話が収められている。
水の精や世界の果てへの航海、魔法のリュート、黄金の扉、森の木こり小屋……それぞれ、単独で読んでも、この上なく楽しい童話である。いかにもおとぎ話らしいモチーフを扱いながら、それぞれに別箇の雰囲気の、どこにもないストーリーが展開される。童話集としても、それは素敵な本なのだ。


父の手がかりを追って、レベッカはエリスとともに、あちらへこちらへ飛び、資料を漁り、人に会う。だんだんに父の横顔が浮かび上がってくるのだが……。
捜索の合間に、レベッカは、父の七つのおとぎ話をひとつずつ読み進める。
そして、七つのおとぎ話は、ただのおとぎ話ではないことに気がつくのだ。
次々とわかってくるお話と現実との符合に、どきどきする。その時々の娘の気づきや思いも、実際の旅とともに、冒険の旅路に思える。


なぜ、父は姿を消したのだろう。
なぜこんなにこの捜索は困難なのだろう。
そして、レベッカは、父を探しながら、ほんとうは何をさがしあてようとしていたのか。


レベッカの物語は、親を求めていく物語であるが、親から離れていく物語でもあった。巡り巡って、(親たちを含めて)多くの出会いの物語、出会い直しの物語であった。
こどもが大人になることを喜ばしく謳いあげた物語、とも思った。