『招かれざる客』 アガサ・クリスティー

 

ある屋敷の当主の書斎を舞台にしたクリスティーの戯曲。
霧の深い深夜、道に迷って車が溝に嵌って動かなくなってしまった、という男スタークウェッダーが助けを求めて、庭に面したフランス窓から入ってくる。
そのとき、書斎の車いすの上では、この屋敷の当主リチャードが拳銃で撃たれて亡くなっていた。そして、そのすぐそばには妻のローラが拳銃をもって立っていた。
彼女は、突然現れた客に、夫を殺してしまったことを告げ、警察に電話してほしいというが……。


書斎を出入りする家族や従僕。やってきた警察。それぞれの思惑が散らばったり寄り集まったりしながら、ぐるぐる回っている。それぞれには、それぞれなりの心情や事情、そして誰にも話したことのない秘密などもあるが、たぶん、家族の死(それも殺人)を前にして、大きな不安のうちに胸の内をあらわさずにいられなくなる。
彼らは、「招かれざる客」スタークウェッダーに自分の打ち明け話を聞いてほしいと思う。なぜなのかといえば、
「……あなたは感情にとらわれずにそれを聞くことができるはずです」
「それはね、わたしどもがおたがい同士で話しあう勇気がないからなんです」


この舞台の上で、唯一、異質な他人、スタークウェッダー。舞台が進むにつれてこの男は存在感を増すし、得体の知れなさは一層際立ってくる。
彼が退場するとき、物語を見事に浚っていった、と感じる。
登場も退場も、あまりに印象的で鮮やかだ。