『グリーン・ロード』 アン・エンライト

 

アイルランドのクレア州のアーディ―バンと呼ばれる家に続く道、グリーン・ロードは海と丘の間を走る。世界で一番美しい道だという。


この物語を、
「海の近くの古い家に、おとうさんとおかあさんと四人の子どもたちが暮らしていました」
みたいな、おとぎ話ふうに始めてもいいような気がしてくる。
四人の子どもたちは、それぞれに巣だっていく。家では、お父さんは亡くなり、お母さんがひとり残る。


巣立った子どもたちはばらばらになり、それぞれ、違う場所、違う分野で活躍したり停滞したりしている。傍目には一見うまくいっているように見えたとしても、そうではないようだ。
家族はいる(現在の家族、嘗ての家族)それなのに本当に心許せる相手はどこにもいないみたい。
心の片隅に固まる家族への思いは、少し面倒な母を中心にして、苦くて、忘れたいけど忘れられないしこりみたいになっている。
ひとりぼっちで不安定だ。
それぞれを主人公にした章を順繰りに読んでいるが、あまり愉快とは言えない状況だ。それは、そうそう変わりようがないのかもしれない。
諦感という名前の曇り空。
ずっと曇天だけれど、章の終わりには、雲がちょっとだけ晴れるような一瞬があって、なんとなく身体を持ちあげられたような感じになる。各章それぞれが短編小説みたいだ。
短編小説が集まり、散らばり、しながら、大きな物語になっていく。


子どもたちは出ていく。親は残り老いていく。
出て行った子どもたちが揃って戻ってくる。
そしてまた出ていく……
そこに大きなドラマも生まれるのだけれど。
生まれた家を中心にして、まるで湖の水面にできた波紋のように、渦のように、螺旋のように、ぐるぐるとまわり、寄せて散り、寄せて散り、それが心地よいくらいのリズムになる。
この家(家族)が、彼らの原点だ。自分が嘗て根を張った場所を、ここだったと確認できることには、意味があるのだと感じている。その場所は変化し、なんなら消えてしまっても。
そのための寄せて(戻って)、返して(また出ていく・いける)、なのだろう。そこにどんなドラマがあったとしても。この先にどんな課題が待っていたとしても。