『ぼくとお山と羊のセーター』 飯野和好

 

「これは ぼくが
 小学生のころの
 おはなしです」
で始まるこの絵本は、絵本作家飯野和好さんの子どもの頃(小学生のころ――昭和三十年頃)のお話だ。
飯野さん(=「ぼく」)は、三軒の家しかない秩父の山で暮らしていた。


家の裏の山では、斜面が一面の茶畑。両親とおじいちゃんが働いている春。
庭の牛小屋には牛がいる。ウサギ小屋にウサギたちがいる。
鶏たちがコーコココ、二頭の羊がメエーヘヘヘと鳴きながら、庭の草を食んでいる。
山の上には家で飲むお茶を乾燥させる倉があり、そのまわりは、羊たちの好きな草場だ。
ランドセルをおろした「ぼく」は、羊たちを山の草場に連れていく。


夏には蚕を飼い、「ぼく」はどんどん桑の葉をとってくる。
秋には、夜なべで作った干し柿を軒下につるす。
冬は山へ薪取り。ついでに吹きつける雪を衝いてソリ遊び。


今年の夏、父さんが言ったのだ。
「来年にゃあ
 あの羊の毛で
 こんどは
 お前のセーター
 つくれるな」
二頭の羊から作るセーターだから、毎年ひとりずつ順番なのだろう。そして、とうとう「ぼく」の番だ。
一年間可愛がって大切に世話をする羊、そして、時間をかけて楽しみに待つセーター。
「ぼく」は、仕事の合間にも、どんなセーターにしようかなと考える。
やがて、羊の毛を刈る時がやってきて……


春夏秋冬、めぐる季節に巡る仕事。家族総がかりの自給自足の生活。
ほんとは厳しい生活だろう。休む暇もない暮らしだろう。けれど、絵本から伝わってくるものは、ちょっと違う。
家族とともに働くことが、生活への愛しみと結びついている感じが伝わってくる。
お蚕さんも、動物たちもかわいいのだ。匂いや音さえも愛らしいのだ。
自分の仕事の結果が、喜びとともに形になっていく。
自分が家族に必要とされている充実感。そして、働くことのうちにある、楽しみや遊びを見つけるのがなんて上手なのだろう。
どんなにお金を出しても決して買うことのできない、これは、そういう特別の豊かさだ。