『母さんの小さかったとき』 越智登代子

 

いずみさん、とっておいてはどうですか?』から、この絵本を思い出して。

 

子どもたちがお母さんと絵本を見ているところに、おばあちゃんが「こんなものがあったよ」と大きな茶箱を出してくる。この箱の中には、「お母さんがちょうどあんたたちぐらいのときに、大切にしていた宝もの」が入っているのだと言って。
だっこちゃんや、ミルク飲み人形、おはじき、リリアン、ゴム跳びのために長くつなげた輪ゴム、懐かしい絵柄のぬりえやままごと道具など。
宝ものを見せながら、お母さんは、自分が小さかったときのことを、子どもたちに話して聞かせる。
まるで図鑑のように広がる、嘗ての下町の子どもたちの暮し。
お話は、子どもとお母さんの会話で進んでいく。


ページをめくるごとに、絵と文章の向こうに子どものころの私自身の兄弟姉妹、大勢の従姉妹たちや遊び友達の姿が蘇ってくる。
家の前の道が遊び場だった。学校帰りの道も遊び場だった。お風呂も。
冬の教室で、だるまストーブをぐるっと囲む、休み時間。
初めて自分一人で編んだあやとりのひも。
野の草花や実で遊んだことも思い出している。


この絵本のお母さんは、私より少しだけ年上だ。私が子どものころとは違うところもあるけれど、一緒一緒と思うこともたくさんだ。
我が子が小さい時、一緒に絵本を開き、絵本のなかの親子の会話を読みながら、昔の子どもの暮らしといまの子どもの暮しのことなど語り合った。子どもには(親にも)、最初、絵本の「むかし」が珍しいものに見えていたけれど、話しているうちに、違うことよりもよく似ていることのほうが沢山なことに気が付いてくる。
読後には、子が、将来のために(?)とっておく自分の宝ものをせっせと点検し始めたのも、楽しい思い出。


この絵本、2019年に、『おばあちゃんの小さかったとき』に改定された。
嘗ての母さん(わたしたち)は、いまやおばあちゃんの歳だ。
絵本のなかのおばあちゃんと孫の会話では、今は(昔なかった)スーパーやコンビニがあること、高いビルやマンションがあることなどにも触れている。パソコンがあり、スマホがある現在、こどもの暮らしは、ずいぶん変わってきたけれど、そんなに変わっていないものもたくさんある。
読みながら確認するあれこれが楽しい。
小さな共感の積み重ねがたのしい。