『いずみさん、とっておいてはどうですか:こどもの時間のモノ語り』 高野文子;昭和のくらし博物館

9784582839074

 

昭和のくらし博物館」に寄贈されたのは、山口いずみさん(昭和27年生)と妹のわかばさん(昭和29年生)姉妹が子どものころに大切にしていた玩具や日記などだ。ふんだんな写真と文章で紹介される。
これらは、彼女たちのお母さんが、ずっと大切に保存しておいたものなのだ。


私は、高野文子さんの案内で、イラストや文章の助けを借りながら、いずみさん・わかばさんの幼い日を辿る旅に出る。
二人とも、私より少しだけ年上だけれど、大切に遊ばれた玩具や、日記に記された日常、先生のコメントに至るまでを眺めていると、既視感とともに自分の子ども時代にタイムスリップした気持になる。少しのあいだ、子どもに戻って、この本のなかで遊びたい。


懐かしい紙の着せ替え人形のたくさんのセット(母親や祖母が集めたものまで含まれている)。
私が昔持っていたのもこんなだった、と思い出す、ままごとセット。赤やピンクに彩色された小さな鍋や皿、施された小花もようの愛らしさ。

 

ことにわくわくしたのは、姉妹に愛された人形のマリーちゃんとメリーちゃん。たくさんの手作りの衣装や小物の楽しさ。細かいところまでじっと見てしまう。裁縫を覚えた姉妹の手によるワンピースや、端切れやダメになった布ものをリフォームしながら、お手伝いのちかちゃんやおばあちゃんが縫ってくれたドレスやシャツ、スカート、きもの。寝具一式。手編みの小さなカーディガンやボレロ。その手の込んだ手仕事に驚き、いまも、こんなにもまっさらな状態で残されていることにさらに驚いてしまう。小さな小さなリュックのなかのほんとうに小さなお弁当箱(卵焼きやおいなりさん入り)まで!


いずみさんの小学三年生のころの日記に書かれた日々は、友だちの名前や遊びのことがたくさんだ。両親といっしょにしたゲームのことなどが楽し気に書かれている。
ともに歴史研究者だったという両親、忙しい日々であっただろうに(だからかな)家族で過ごす時間を楽しみ、大切にしていたことが思われる。


玩具たちを眺めていると、のびやかに遊ぶ子どもたちのまわりの、あたたかい大人たちの目配りを感じる。この本が楽しいのは、それだからだと思う。幸福な玩具たちだ、と思う。