『つるにょうぼう』 矢川澄子(再話)/赤羽末吉(画)

 

 

民話『つるにょうぼう』を再話した絵本はたくさんあるけれど、思い出す限り、今まで一冊も手にとったことはなかったのではなかろうか、と振り返っています。
この絵本を初めて手に取って、美しさに、ほうっとため息をつきました。


矢川澄子さんの美しい文章と、赤羽末吉さんの日本画が、それは良い具合に溶け合って、民話の空気を作り上げている。
簡素、質素というくらいのしんとした清々しさと、冷たい雪も囲まれてみればこんなふうに温かいものだな、と思うようなぬくもりと湿気とを、絵本全体から感じる。同時に、ぬくもりは、悲しみに通じている、とも感じている。


最初のページで描かれる、よ平が傷ついた鶴を助ける場面は、文章も絵もあっさりしている。
雪が降りしきる白っぽい画面に、人の姿がシルエットでぼんやり見えるくらい。物語の幕が開く前のプロローグという感じ。
物語が始まるのは、その次のページだ。
美しい娘が、よ平の家の戸を「ほとほととたた」いて、「女房にしてくださいまし」とたずねてくるところから。
娘と青年が夫婦になるというところから物語が始まるのだ、と思えば、ああ、この物語は、夫婦の物語だ、そして心変わりの物語だ、と感じる。
絵本のページを繰っていると、実直そうだったよ平の顔つきがだんだんと変わってくるのを感じる。
描かれたよ平の顔は、どこまでも抑えた表情で、そこに大きな変化はないのだけれど……。


最後のページは、下のほうに、横に広がる雪の広い大地がある。山々に抱かれて眠ったような白い景色だ。そのうえに広がる大きな空は、灰色の雲が、右の上のほうだけうっすらと晴れて青い。青いなかを飛び去る小さな鶴の姿。
晴れ晴れとした美しい画面に置いてきぼりを喰わされたようで、ただ名残惜しい。