1月の読書

1月の読書メーター
読んだ本の数:19
読んだページ数:5152

ポロポロ (河出文庫)ポロポロ (河出文庫)感想
本当はよくわからないけれど、何か別の言葉に代えることのできない祈りともいえない祈りのようなものがあるのか、と思った。ただ、ありのままの今の自分の状態を受け入れる、ということだろうか。達観、といってしまうとまたちょっと違うような、現実を超越したような、とても卑近に見えるのに超えている。
読了日:01月29日 著者:田中 小実昌
オリーブの海オリーブの海感想
決して、きらきらと明るいばかりの夏ではなかったはずなのに、清々しい、と言ってもいいくらいの透明さを感じるのは、そこが夏の海だからだ、と思う。海の色に、少し切ないような気持ちになるのは、これが、子どもの時代がほぼ終わっていく名残りの色だと思うからだ。
読了日:01月27日 著者:ケヴィン ヘンクス
ヘヴィ あるアメリカ人の回想録ヘヴィ あるアメリカ人の回想録感想
個人的な事実(でも、きっと、ほんとは普遍的)が赤裸々に重ねられていく。読むほど、おまえに何がわかるかと突き放されるような気がして、居心地が悪くなる。綺麗な言葉なんて書けない。本当の事だけを書いた著者を前にして気の利いたことを書こうとすると嘘の言葉になってしまいそう。今、著者や著者の家族はどうしているのだろう。
読了日:01月26日 著者:キエセ・レイモン
スコルタの太陽 (Modern & Classic)スコルタの太陽 (Modern & Classic)感想
世代をまたぐ一族の物語。特異な育ち方をした兄妹たちは、固く結ばれていた。一族は、オリーブの木に似ている。夏の昼は激しい照りつけにより、ろくな作物が実らない貧しい村にもオリーブが茂る。樹は思い出を蓄えて豊かだ。樹の姿を思い描くと、ひたひたと喜びが満ちてくる。
読了日:01月24日 著者:ロラン ゴデ
ぼくの昆虫学の先生たちへ (筑摩選書)ぼくの昆虫学の先生たちへ (筑摩選書)感想
14人の先生たちへの手紙は、昆虫を追う少年の日記(自伝?)のようでもあり、眩しい過去の日々の照り返しのようだ。それは大らかな祈りへと続いていく。(14人の先生たちへの手紙のうち、最後の手紙が、メキシコ山岳地帯の呪術医ドン・リーノへの手紙である、ということは、きっとこの一冊の本が祈りそのものだから)
読了日:01月23日 著者:今福 龍太
オンボロやしきの人形たち (児童書)オンボロやしきの人形たち (児童書)感想
この物語の語り手は、妖精の女王で、彼女は、オンボロ屋敷の人形たちの陽気さが大好きで、なんとかして、こっそり助けてやりたいものだ、と考えたのだ。人形たちも、人間たちも、そこに妖精がいるなんて、まったく気がついていないのにね。笑う門には福来るって、ほんとうかもしれない。
読了日:01月21日 著者:フランシス・ホジソン・バーネット
未完の肖像 (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)未完の肖像 (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)感想
シーリアの物語は事実なのだろうか。画家は、この物語を「未完の肖像」と呼んでいる。だとしたら……これは、いったい誰の肖像なのだろうか。シーリアとは、もしかしたら、語り手である画家自身のことではないだろうか。片手を失った画家の再生の長い道のりの物語を、一人の女性の半生になぞらえて描きあげたのかもしれない。
読了日:01月19日 著者:アガサ クリスティー
どんぐり喰い (福音館の単行本)どんぐり喰い (福音館の単行本)感想
ドングリを喰うほど貧しいあわれな連中のはずの日雇いたちを描き出す言葉の温かいこと。読み終えて蘇る鮮やかなあの場面もこの場面も、これ以上の財産はないよ、ほかの何とも取り換えたくないよ、という、胸を張っての宣言みたいで、ひときわ眩しい。 その日暮らしで年がら年中腹を減らしているというのに、なんというお大尽だ。
読了日:01月17日 著者:エルス・ペルフロム
大統領の最後の恋 (新潮クレスト・ブックス)大統領の最後の恋 (新潮クレスト・ブックス)感想
大統領は、いいように操られて、国の(あるいは、一部の人びとの)人質のようだ。孤独で。大統領は、横柄さと毒舌こそ自分の地位にふさわしい、と考えている。その気まぐれで、周りの人々を振り回している。けれど根はちょっとやさしい。この純情な男の幸せが続きますように、と願う。国のためじゃなくて、彼自身のために。
読了日:01月16日 著者:アンドレイ・クルコフ
その花の名を知らず 左近の桜その花の名を知らず 左近の桜感想
夢と現の境界も知らずに漂う感じは、まるであてのない旅をしているようだ。夢の中で縁者たちの思いがけない足取りを見つけたり、いくつかの謎が解けていくが、解けた謎はさらに大きな謎の入口でしかない入子細工なのだ。まだ旅の途中なのかも。途上で出会った人々は何を桜蔵に託そうとしたのだろう。告げようとしたのだろう。
読了日:01月14日 著者:長野 まゆみ
左近の桜左近の桜感想
物語は12章。12の季節(4月に始まって3月に終わる)の連作短編だ。各章それぞれの物語は、その月々の草木や風物、行事などをからめて描かれている。雰囲気がある。しっとりとした空気感がちょっと懐かしいような、こわいような。艶かしい話に後退りしそうになるのを、季節の美しい描写が引き留めている。
読了日:01月13日 著者:長野 まゆみ
ハートに火をつけないで (創元推理文庫)ハートに火をつけないで (創元推理文庫)感想
事件の展開など、どうでもよくなるくらいに、三人の女たちの活躍(と失敗)、嘘八百に、大いに笑う。このシリーズはすでに二十作目が出ているとのことで、びっくりしている。二十作目では、彼女の身辺はいったいどうなっているのだろう。まずは次の巻を楽しみに待ちたい。
読了日:01月12日 著者:ジャナ・デリオン
空白の日記〈下〉 (福音館文庫 ノンフィクション)空白の日記〈下〉 (福音館文庫 ノンフィクション)感想
覚悟はしていたけれど、次々に苦難が押し寄せてきた。この苦しい日々はいつ終わるか。私は、ゴールは1945年の連合国によるオーストリア解放だと思っていたけれど、そんなに簡単なものではなかったようだ。独裁政権が破壊した大切なものは二度と元に戻らなかったし、いつまでも忘れることのできないものを置いていった。
読了日:01月11日 著者:ケーテ レヒアイス
空白の日記〈上〉 (福音館文庫 ノンフィクション)空白の日記〈上〉 (福音館文庫 ノンフィクション)感想
日記を燃やそうとするレナを止めた兄のクリストフの言葉が心に残る。「パパが言ったんだ。自分がまちがいをおかした人間だけが、ほかの人間のまちがいにも気がつく」 日記は焼かれなかったが、その後のページは書くことができず空白のまま残された。たぶん……書かれた言葉よりもずっと雄弁にその後の日々を語る苦しい空白のページ。
読了日:01月11日 著者:ケーテ レヒアイス
靴屋のタスケさん靴屋のタスケさん感想
何もかも破壊しつくし、誰もかれも攫って行く戦争。暮らしていた人たちはどこに行ってしまったか。誂えの靴なんかに思いを馳せるどころではないのだ。そう思えば思うほど、荒れはてた光景の中から、鮮やかに浮かび上がってくるのは小さくてとても丁寧に作られた美しい靴。楽しげな歌が聞こえる。弾んで踊る靴たちの姿が蘇る。
読了日:01月10日 著者:角野 栄子
沈むフランシス沈むフランシス感想
情景描写が素晴らしかった。物語の始まりの「からだ」は、この町に住み着いた主人公のようだ。浮かびもせず沈みもせず、ゆらゆら流されていくのは、見ていて歯がゆい。沈み切るにせよ、浮かび上がるにせよ、はっきりして欲しい。底に足がついたところから、とんと蹴って上っていくよ、という感じは心地よい。
読了日:01月08日 著者:松家 仁之
この まちの どこかに (評論社の児童図書館・絵本の部屋)この まちの どこかに (評論社の児童図書館・絵本の部屋)感想
この子は、「ちいさな もの」が立ち寄りそうな場所をあちこち探し回っているのだ。 いなくなってしまった「ちいさな もの」を思い、胸の内で声を掛けながら……。「ちいさな もの」と一緒に過ごしたすべての時間が、大切で愛おしい手がかり。この子の、今できる精一杯が泣きたいくらいに愛おしい。
読了日:01月07日 著者:シドニー・スミス
トロナお別れ事務所 (ハーパーコリンズ・フィクション, F16)トロナお別れ事務所 (ハーパーコリンズ・フィクション, F16)感想
どんな相手ともあとくされない別れを代行してくれるトロナお別れ事務所。お別れをコーディネイトするマネージャーは人の別れに立ち会い、別れる人や別れを告げられる人の痛みに寄り添い悩みながら、実は、自分の「別れ」と向き合っていたのかもしれない。一番大きな顧客は自分自身だったのかもしれないね。
読了日:01月06日 著者:ソン ヒョンジュ
ジャノメジャノメ感想
大きくなるためにあきらめなければならなかった大切なものが、形を変えて存続していることも、ある。切ない物語が始まるか、とおそるおそる手に取ったこの本に、こんなにたくさんの仕掛けがあったなんて。こんなに幸福な気持ちで読み終えることになるなんて。動物園に行きたくなる。
読了日:01月03日 著者:戸森 しるこ

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