『シタフォードの秘密』 アガサ・クリスティー

 

始まりは、降霊術のテーブル。大雪が近づいてくる寒い日、シタフォード荘の客間で、六人の老若男女が、お茶会の余興に始めた降霊術は、日本でいえばこっくりさんみたいなもの。
少し離れた町で、今この時間に、シタフォード荘の家主トリヴェニアン大佐が死んだ、殺された、と霊は告げる。
そして、ほんとうに、彼は殺されたのだ。
逮捕されたのは、被害者の甥ジェイムズ。だけど、本当に彼が犯人なのか?
容疑者の婚約者エミリーは、ジェイムズの無実を信じ、真犯人を探そうと決意する。


ダートムーアの寂しい村は雪に埋もれる。家に閉じ込められた村の人たちは、せっせと人のうわさに精出す。これもイギリスの田舎の冬景色かもしれない。
こんな季節には、胸の内に押し込めて、だましだまし寝かせてきたものが、自分でも気がつかないうちに悪さをし始めることもあるのかもしれない。


素人探偵エミリーのエネルギッシュな活躍、したたかな策略に目が回りそうだ。
強い女たち(若いのと老いたのと)の意気投合の語らいが好きだ。秘密結社みたいで。


あやしい人はたくさんいる。秘密を隠し持った人たちや、ねじくれた悪意をちらつかせる人。でもそういう人たちが犯人であるわけないよね……。
そう思っていても、犯人が予想もしていなかった人でびっくりしたが、同時に、ああ、やっぱり……とも思っていた。
丁寧に張られた伏線がきちんと回収された満足によるのかもしれない。
すっきりとした結末、気持ちのよい終わり方であるのに、なんだか寂しい。このどんづまりのような田舎の冬景色のせいもあるかな。