『ゴフスタイン つつましく美しい絵本の世界』 M.B.ゴフスタイン

 

最初にぱらぱらとページを繰りながら、たくさんの写真や絵、そして、美しく配置された文章の並びを楽しむ。
丸顔にちょっとだんご鼻でちっちゃな目をした人たちが、ちょこちょこと動き回っている。もの言いたげな表情は、こんなこともあんなことも驚きなんんだよ、って言っているみたい。


終わりのほうの年譜、その一番最後の行を読んで、びっくりしてしまった。亡くなったことも知らなかったんだ、わたしは。
「2017 12月20日 77歳になる誕生日に死去」
77歳だったのか。お誕生日だったのか。美しい絵本を作った人は、そうして旅立っていたのか。


インタビューのなかで、自身の創作についてこんな風に語っている。
「絵はみんな話をすると思っているんです。主人公たちは実際に紙の中に存在してすでに何かが起こっていて、私自身は「come out,come out,(出てきて、出てきて)」と、彼らを引き出している感じなのです」
絵本のかきかたを若い人たちに教えていた時のことも話している。
紙の上に自分の絵を「引き出す」(自分の本当の作品を見つけ出すこと)の手伝いをすることは本当に素敵なことだ、と言っている。
絵でもなんでも、自分の本当のものを引き出すって難しい。
ゴフスタインが、今、ここにいて、私と一緒に「come out,come out,」と言ってくれないかな。私の前にも、何かが顔をだしてくれないかな。


私がゴフスタインの絵本と出会ったのは『リトル・シューベルト』だった。もう四十年以上たつ。
どのゴフスタインも大好きだけれど、わたしは今でも一番、この本が好き。
指先もかじかむ屋根裏部屋で、丸い眼鏡をかけた丸い顔のシューベルトは、彼だけに聞こえる音楽を聴いている。「きこえる きこえる」って目を閉じて。彼は、聞こえる音楽をせっせと紙に写しとっている。
その幸福な姿は、「come out,come out,(出てきて、出てきて)」と呼びかけるゴフスタインそのもの。そっくり重なるじゃないの。
小さなシューベルトは、寒くてじっとしていられなくなったなら、ぱちんぱちんと指を鳴らす。とんとんとんと足踏み鳴らす。そうして、部屋の中で踊りだす。
絵本のなかをおどりながら遠ざかっていく小さな後ろ姿が、誕生日に旅だったゴフスタイン本人に重なる。