9月の読書

9月の読書メーター
読んだ本の数:23
読んだページ数:6196

天皇の逝く国で[増補版] (始まりの本)天皇の逝く国で[増補版] (始まりの本)感想
いったいこの本、三十年前の出来事を書いているのだろうか。起きた事件や波及していくあれこれは、まるでついこの間、見聞きしたことのようだ。軍歌をがなりながら通る「右翼」の街宣車は最近は見ないが、それに代わるものがあり、当たり前のことを当たり前に言おうとする人の声を塞ごうとしているではないか。三十年前と同じ論調で。
読了日:09月29日 著者:ノーマ・フィールド
帰ろう、シャドラック! (文研じゅべにーる)帰ろう、シャドラック! (文研じゅべにーる)感想
ハンナたちが老馬シャドラックを連れて帰りたかった場所は、本当はシャドラックが元気だった昔の我が家かもしれない。ハンナたちの冒険を追いかけながら見えてくるのは、彼らの後ろにいる大人たちの姿。シャドラックが美しい馬ではないのがいい。最後にのこされたものがいい。
読了日:09月28日 著者:ジョイ カウリー
ない本、あります。ない本、あります。感想
隅々まで凝ったデザインで、ほんとうに本屋さんの棚にこの本が平積みで置かれていてもちっとも変じゃない、と思うのに、よくよく見ればあちこち遊んでいて……あれこれ発見もあるけれど、きっと見逃しているところがいっぱいあるにちがいない。ワクワクしてくるね。いいなあ、こんな「私だけの本」があったら。
読了日:09月27日 著者:能登 崇
コルバトントリコルバトントリ感想
書かれている一文一文をその場で理解しようと思うのをやめてみる。そうしたらこの一文一文の連なりはひとりでに物語に変わり胸に染み入ってくる。豊かさから取り残された町の隙間に、寂しいようなやるせないような、美しいような、なにか澄んだものがあるのを感じている。目を閉じたまま月の光を感じるように。
読了日:09月26日 著者:山下 澄人
ひらいたトランプ (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)ひらいたトランプ (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)感想
魅力的な四人の探偵の共演はなんとも豪華。四人の名(?)探偵たちがそれぞれの個性を発揮して四人の容疑者とどうかかわっていくかが楽しみ。過去と今合計いくつの死がテーブルに乗せられることか。その間に四人の「善人」がどこでしっぽを出すか。最後の解決編が「ひらいたトランプ」というのも粋だった。
読了日:09月25日 著者:アガサ クリスティー
てがみをください (ぽっぽライブラリ みるみる絵本)てがみをください (ぽっぽライブラリ みるみる絵本)感想
誰かから手紙が届くってうれしい。誰かが、わたしのために、わたしに宛てて書いてくれたんだ、と思うだけでほんとにうれしい。だからね、かえるに宛てた手紙も届くといいなあ、と思う。かえる、どこかで自分あての手紙がとどくのをまっているだろうか。偉そうな顔して
読了日:09月23日 著者:山下 明生
スナーク狩り (光文社文庫プレミアム)スナーク狩り (光文社文庫プレミアム)感想
自分の中から暴れ出ようとする怪物スナークを押さえつけようとする。押さえながら餌を与え育ててもいる。こんな状況おかしくならないほうが不思議。こんなことになったのは物語の登場人物の一人が言うように「間違っているのは、~~じゃなくて、もっと別のところのような気がするのです」 でも、それならどうしたらいいのか。
読了日:09月22日 著者:宮部 みゆき
ミヒャエル・エンデのスナーク狩り―L・キャロルの原詩による変奏ミヒャエル・エンデのスナーク狩り―L・キャロルの原詩による変奏感想
この本が、たくさんのまえがきやあとがきによって、いったいどれが本文なの?という造りになっているのがおもしろい。あれやこれやが集まって、おおまじめに、これでもかってくらいにナンセンスな論を張っているのがすてきで、これら全部ひっくるめて、徹底的にナンセンスな本だ。
読了日:09月21日 著者:ミヒャエル エンデ
スナーク狩りスナーク狩り感想
ルイス・キャロルの詩に、トーベ・ヤンソンの挿絵は雰囲気をもりあげる。ユーモラスでちょっと不気味。キャロルの「遊びと謎に満ちた原作の韻文性」をそのまま味わえないのは残念だけれど、訳者穂村弘だって、言葉遊びなら負けてはいない。作者と訳者がじゃれあって遊んでいるみたい。楽しくなってしまう。
読了日:09月20日 著者:ルイス・キャロル
じゃがいも―中国現代文学短編集じゃがいも―中国現代文学短編集感想
8人の作家による中国現代文学短編10編。幅広い作風で、一作ごとに次は何が出てくるかな、と楽しみにページをめくった。10作中7編が農村部を舞台にした作品だったことも心に残る。広々と続くじゃがいもの畑や、魚が跳ねる大河、熊や虎が隠れ住むかもしれない森など。好きなのは、『銀色の虎』『大エルディン川』『ピンク色の夜』
読了日:09月18日 著者:遅 子建
リスタデール卿の謎 (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)リスタデール卿の謎 (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)感想
おもしろいなあと思うのは、まきこまれた人たちの変わりよう。冴えない人、不運な人、不満ばかり並べたてている人たちが、物語のおしまいには、ちょっと別人みたいに見える。心は冒険が始まることにわくわくしているのではないか。そんな変わりようを楽しんだ12編だった。
読了日:09月17日 著者:アガサ クリスティー
父の時代 ―息子の記憶― (韓国文学の源流シリーズ)父の時代 ―息子の記憶― (韓国文学の源流シリーズ)感想
読んでいると、父のイメージがどんどん変わってきて、どこまでもつかみどころがない。むしろ、浮き上がってくるのは、時代と人々の様子。ことに母のことは大きく心に残る。やさしさという言葉が一番そぐわないような母が、誰よりも慕わしい人に思えてくるし、労りの気もちが湧き上がってくる。
読了日:09月13日 著者:金源一
ゴフスタイン つつましく美しい絵本の世界ゴフスタイン つつましく美しい絵本の世界感想
インタビューの「絵はみんな話をすると思っているんです。主人公たちは実際に紙の中に存在してすでに何かが起こっていて、私自身は「come out,come out,(出てきて、出てきて)」と、彼らを引き出している感じなのです」が心に残る。絵本の中の小さな人たちが、作者そのものに見える
読了日:09月12日 著者:M.B.ゴフスタイン
僕はマゼランと旅した僕はマゼランと旅した感想
ここに住む連中は、ここを懐かしがる者たちは、もっと美しいものが絶対見えている。聞こえている。錆びたアパートの外階段。開いた窓から聞こえてくる痴話げんかの声。そして、いつも変わらずに流れる悪臭放つ(不)衛生運河。星も見えない狭い空は意外に深くて魔法がかかっているようだ。だれかがサキソフォンを鳴らす。
読了日:09月10日 著者:スチュアート・ダイベック
すいかのたねすいかのたね感想
すいかのたね。ぶどうのたね。みかんのたね。ことを、ああ、お腹の中で芽が出て木になっちゃったらどうしよう、と本気で心配したのは、いったい幾つくらいのころだったっけ。それにしても、丈夫な歯でばりばりすいかを食べるワニの子どもの豪快さはなんて気持ちがいいのだろう。すいかは、こんな風に食べるものだよね。
読了日:09月09日 著者:グレッグ・ピゾーリ
花の子ども花の子ども感想
庭園で、彼が挿し穂した薔薇が育つ。小さな娘も育つ。その愛おしさ。ロッビが故郷から持ってきた挿し穂の薔薇と、小さな娘とが重なる。この子はきっとどこにでも根をおろして美しい花を咲かせる強い枝だ。奇跡、という言葉がでてきたけれど、人が生まれること、生きていくことは、やはり奇跡なのだ
読了日:09月08日 著者:オイズル アーヴァ オウラヴスドッティル
小さな心の同好会 (となりの国のものがたり8)小さな心の同好会 (となりの国のものがたり8)感想
「わかんない」とある人がいった。「わかんないことは、そのままわかんないって言えばいいのよ。多分それって、私たちがいいとか悪いとか言えるようなことじゃないの」私は、この言葉が好きだ。わかったふりなんかしない。そして、「わかんない」は、「わかりたい」「わかるようになりたい」に開かれている、と思うから。
読了日:09月07日 著者:ユン・イヒョン
チムニーズ館の秘密 (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)チムニーズ館の秘密 (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)感想
見事に作者のミスリードに乗って、絶対そういうことだよねと思っていた当ては、見事に外れた。次つぎに驚かされる謎解きの場面では、最後の最後に、ああ、まさか!という留めを刺された。なんと、スケールの大きな、ロマンチックだろう。ああ、おもしろかった。楽しかった。
読了日:09月06日 著者:アガサ・クリスティー
妄想銀行 (新潮文庫)妄想銀行 (新潮文庫)感想
不快なあと味に出会っても、あまり考えないでさくさくと読む。つもりだけれど案外、苦い味ってあとに残る。そんなだから、ときに甘い味に出会っても信用できなくて、素直に「これおいしいね!」というより先に「私、揶揄われていない?」と疑ってしまう……いえいえ、やめておこう。気軽に読めるのが魅力のショートショートだから。
読了日:09月05日 著者:星 新一
すきです ゴリラすきです ゴリラ感想
一つ一つ取り上げてみれば、どれもささやかな体験だったと思う。それが特別な体験になったのは、大好きな相棒と一緒だったからだ。ただ一点、そこに色を刺すだけで、どうってことのない出来事が見違えるようになる。ひとりぼっちの子どもの想像力が奇跡を呼び寄せたのかもしれない。絵が雄弁に、文章にない言葉を語っているのも印象的。
読了日:09月04日 著者:アンソニー ブラウン
大人になるっておもしろい? (岩波ジュニア新書)大人になるっておもしろい? (岩波ジュニア新書)感想
主に十代の若者たちに向けて。だけど、もっと上の、とりわけ私にとって、モノを考える手引きとなる本だった。怒ること。自信のこと。ひとりでいること。終われない祭りのこと。ルールとモラルがぶつかったら。どれも鵜呑みにするのではなくて、立ち止まり、自分の胸の内を整頓するためのものすごくありがたい助っ人だ。
読了日:09月03日 著者:清水 真砂子
【旧版】深夜特急6 ー南ヨーロッパ・ロンドン (新潮文庫)【旧版】深夜特急6 ー南ヨーロッパ・ロンドン (新潮文庫)感想
旅が若返っている。まずは目標を達成するめぼしがついた安堵・解放感とともに、旅が終わる事の名残惜しさが混ざる。読んでいるわたしは、六冊分の旅、一年かけてまわった国々、町々の出会いや別れを振り返っている。名残はつきぬがとうとう終点のロンドンだが……
読了日:09月02日 著者:沢木 耕太郎
ナガサキナガサキ感想
どの国だろうが、いつの時代だろうが、ことに自国の同胞たちに目隠しをして、不正義の協賛者にしたてあげようとする団体がいるのだということを心に留めておきたい。長崎の語り部たちは高齢で、思い出すのも苦しい人生を後の時代の者たちにわけてくれている。もう二度との思いとともに。そのことへの答えかたを見つけなければ、と思う。
読了日:09月01日 著者:スーザン・サザード

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