『バスにのって』 荒井良二

 

 

ここしばらく、ゆっくりと沢木耕太郎著『深夜特急』を読んでいる。東京を出発して、あちこち経由してインドのデリーへ。そして、デリーからロンドンまでバスを乗り継いでの長い旅の紀行文だ。
深夜特急』を読んでいると、耳の奥から聞こえてくるリズムがある。
トントンパットン トンパットン
トントンパットン トンパットン


それで、大好きな荒井良二の絵本『バスにのって』を出してきたところだ。
「トントンパットン……」は、この絵本のなかに繰り返し出てくるお気に入りのフレーズだ。
砂漠だろうか、地平線の見える広いところ。
「空はひろくて 風はそよっとしています」というところにぽつんとバスの停留所がある。そこに大荷物とともに人がすわっている。
「バスにのって とおくにいくところです」
といっている。
そもそもタイトルが『バスにのって』なのに、かんじんのバスはなかなか来ないのです。
トラックもきたし、馬に乗った人もきたし、自転車もきた。
でもバスだけはこない。夜になってもこない……
ただただ待っているばかり。
そのあいだ、ラジオから流れてくる音楽が、「トントンパットン……」なのだ。


このリズム、なんだか忘れがたくて、何かというと思いだす。
どこか楽しいところに向かう乗り物に乗っている時には嬉しい気持ちで。
登坂を自転車漕いでいる時には掛け声のように。
それから、とても焦っていて「落ち着け、とりあえず落ち着け」と自分に言い聞かせている時、頭の奥から徐々に聞こえてくる「トントンパットン トンパットン」


そうだよね。空は広いし、ときどきは風もそよっと吹くよね。
思うようにならないことは、長い目でみれば、たいていは大したことじゃない……
と、思うよ。たぶん。
トントンパットン トンパットン
トントンパットン トンパットン
いい感じ。のんびりいきましょう。