『エレベーターで4階へ』 マリア・グリーペ

 

 1930年代の物語だ。

ロッテンは11歳。
ママが、住み込みのお手伝いの仕事を手に入れた。
エレベーターがある立派な建物の四階がご主人一家の住まいで、この家の一室にロッテンとママは引っ越してきた。
ロッテンを愛しているが、ご主人夫妻や同僚たちに遠慮して、ロッテンの行動に神経質に気を使うママに、ロッテンは時々イライラする。
ママは、ロッテンが身の程をわきまえ、お行儀良くして、ご主人のこどもたちと会わないようにしてほしいのだ。


ロッテンは、好奇心と反骨精神でいっぱいだ。
この家の奥様オルガとは、すでに出会っている。お手伝いたちには陰で「こどもっぽい、ふわふわしている」といわれているが、オルガは、ロッテンには優しく、たいそう魅力的な人だった。
この家の長女マリオンともすでに、ふたりだけの秘密を共有し合う友情を築いていた。
どちらも心配性のママには絶対に言えない。


階級差のはっきりした社会で、この一家は「上流」に属する人たちだ。
だから、ロッテンに魅力を振りまくオルガや、ロッテンを「仲間」と呼んで振り回すマリオンの事を、最初は、身分のちがう少女ロッテンに、気まぐれの興味で接しているのだろう、と思って読んでいた。まるで、新しい玩具か子猫みたいに。
でも、そんなに単純な話ではなかった。
マリオンが抱えこんでいるもの。
オルガの右目と左目に宿ったもの。
ママがロッテンのために心配し願っているもの。
ずっと同じように思えていたあれこれのリズムが、読み進むにつれて、少しずつ変わってきていることに気がつく。


ロッテンの危なっかしい綱渡りが、だんだん愛おしくなってくる。ロッテンが大切にしようとしているものの意味が少しずつ私にもわかってきたように思える。
ハラハラしながら、ロッテンの行動を見守ってきた私の、ハラハラは、いったい何によるものだったのだろう、と考えてしまう。


読めば読むほどに、知れば知るほどに、人は見た目通りではないことがわかってくる。
もしかしたら、そういうことなのかな、とうすうす感じていることもある。
そして、この物語は三部作の一作目、まだ全体の三分の一にすぎないのだと思えば、まだまだ何もわかっていないに等しいのかもしれない。
少女たちも成長していくはずだ。物の見方も考え方も変わっていくだろう。


ママがロッテンに買ってくれた便箋に、ロッテンは、亡くなったおばあちゃんへの手紙を綴る。
おばあちゃんに届くつもりで書いていると、不思議に返事をもらえたような気持になる。
亡くなってもなお、大きな存在感を示すおばあちゃんが素敵だ。