『自分の部屋があったら』 マリア・グリーぺ

 

 

三部作の二作目で、『エレベーターで4階へ』に続く、1930年代の、冬から春にかけての物語。
お屋敷の住み込みのメイドの娘であるロッテンと、お屋敷の娘マリオンの友情は、続いている。
『エレベーター……』で二人が共有した秘密の、思いがけない事実がわかったり、ちょっとほっとしたり。
お屋敷の奥様オルガへのロッテンの思慕はますます深くなっていく。


ロッテンのクラスにやってきた代用教員は、子どもたちの信頼を得られない。クラスは、たちまち荒れていく。
これまで封印されていた、それぞれの胸の内の、誰かを傷つけたい、という思いが解放されたようだ。
胸の内で、おとなしく飼い慣らしたつもり、あるいは、存在さえも忘れていたつもりの怪物が、機会を得て暴れ出したように見える。
あっというまに、学級が崩壊していく様子を、スローモーション画面で眺めているような印象だった。


家庭では、ロッテンとママの間も、ある事情から、ちょっとおかしなことになってくるし、マリオンの家庭も、もしかしたら危機が訪れているのかもしれなかった。
これからどうなるのだろう。
気になるのはマリオンのほう。
一見恵まれたお嬢さん、あるいは周囲を顧みない問題児。だけど、本音をなかなか語らないマリオン。もしかしたら、怖くて語れないのかもしれない。あるいは、マリオン自身にもわからないのかもしれない。


ロッテンは最近、うそをつくことが多くなってしまったことを気に病んでいる。
自分の部屋があったら、というロッテンの願いは、うそをつきたくないからだ。
誰にも覗かれる心配がない、説明することなく、自分のもの(秘密)をそのまま置いておける場所は、きっと誰にでも必要。
自分の部屋とは、ロッテンの心そのものと思うし、成長の証みたいなものだろう。


ロッテンは、いつものように、亡きおばあちゃんに手紙を書きながら、気がつく。
今までは、書けばすぐにおばあちゃんの返事が聞こえたような気がしたけれど、それが、うまくいかなくなってきていることに。


今まで気がつかずにいたことに、周囲の変化に「なぜだろう」と思い始める。
なぜだろう……ほんとうはどういうことなのだろう……
ロッテンのまわりも、ロッテン自身も、変わっていく。