『ルーデンス』 朽木祥 (「鬼ヶ島通信76号」より)

「ルーデンス」
朽木祥
鬼ヶ島通信 70+6号
発行日:2021年5月25日
発行所:鬼ヶ島通信社

 鬼ヶ島通信76号。特集は「どうぶつを書く」
九人の児童文学作家による、さまざまな動物の物語、詩、エッセイだ。
動物化(!)したぬいぐるみ。お堀のなかの外来種。暮らしの変化に戸惑うネコ。担任の先生が人間とは限らない。空に浮かぶつきみうどんを眺めたり。
一口に動物といっても、描きかた、取り上げかた、ことに人とのかかわりかたが、それぞれ本当にさまざまで、おもしろい。

アラスカで作者が出会った野生動物たちのコラージュが楽しい『アラスカ動物日記』(あずみ虫)。原野を走り抜ける六頭の白いオオカミが印象的だった。

生き物の擬人化を嫌っていた舘野鴻さんの、擬人化についてのエッセイもおもしろかった。あえて擬人化した絵本『あまがえるのかくれんぼ』読んでみたい。(アマガエルの世界を人の言葉で伝える)

『どうぶつを書く』に寄せた作家さんたちのアンケートも興味津々。ことにそれぞれの作家たちがあげる一冊(動物が登場する自作や、好きな動物本の話)は、うれしい読書案内だ。
まったく異なったタイプの動物の物語や絵本を書く、宮越暁子さん、片川優子さん、那須田淳さんの座談会もある。
もうひとつの特集は『あれから10年』大震災から10年たった。

私の目当ては、朽木祥さんの『ルーデンス』で、いそいそとページを開く。


★『ルーデンス』 朽木祥

「ぼく」は、公園の滑り台を何度も滑って遊ぶカラスに会って、仲良くなった。
カラスの名前はルーデンス。
生まれてすぐ、駆除されかけたところを、画家のおやじさんに助けられたのだった。

保護すべき生き物と駆除すべき生き物がいること。
いろいろな事情があることも、なんとなくわかっているつもりだったけれど、そんなことを決められると思っている人間は、傲慢かもしれない。
動物にきいたら、駆除すべき筆頭は人間、というんじゃないだろうか。でも、彼らは、そんなこと言わない。慎ましく生きている。
生まれた場所で、精一杯に生きて死んでいくだけなんだよね。

ルーデンスが、おやじさんに描いてもらった絵、わたしもみたかった。
「ものすごく上等な絵だったんだ。俺があんな鳥なら、駆除なんかされるはずがないと思ったくらい、つやつやと黒くてきれいな翼の、カラスの絵」
と、ルーデンスは言うのだ。切なくなる。
かわった鳥をみつけたと期待したのに、それがカラスだとわかった途端、「なあんだ、カラスじゃないか」と言ったりする私は、恥ずかしくなる。
……上等か上等でないか、なんて、誰が決められるのだろうか。
誇り高くて、寂しがり屋のルーデンス。あなたはすごく上等だ。
どこかにいるだろうか。