101/2章で書かれた世界の歴史

101/2章で書かれた世界の歴史 (白水Uブックス)

101/2章で書かれた世界の歴史 (白水Uブックス)


ノアの箱舟から始まった。
聖書に書かれていることは、起こった事件(事実であるとして)の骨格だけ。
実際に、大嵐の中を船出した船はどういう船であっただろうか。ノアという人は。乗船した動物たちは。
そして、船での生活はどんなものだったのだろうか。
それは想像するしかないのだ。どんな物語も生まれそうな気がする。
こんな皮肉な物語も。


『世界の歴史』というからには、二章以下、時系列に沿って、物語は続いていくのだろうと思った。
いきなり現代に飛ぶ。ハイジャックに巻き込まれた男の物語だ。
どういうこっちゃ???
どこが歴史なのだろうか???


ああ、そういうことか、と少しずつわかってきた。
壮大な繰り返しなのだ。
聖書の「ノアの箱舟」は、くりかえされる。形を変えて。
いろいろな角度から、いろいろな大きさで、いろいろな色で・・・
まるで、カノンのように軽快に、時にはフーガのように荘重に。


何度も・・・繰り返し繰り返し主旋律が現れる。
繰り返し現れる主旋律は、ひとときの夢。そして、夢はまったく違う物語に姿を変える。
人は物語る。
物語は、くりかえされる旋律をまったく違う物語にかえてしまう。
人間は、夢見る者であり、物語を語る者である、ということを強く意識している。
悲劇が続く歴史に絶望しないで、くりかえされる歴史に退屈しないで、生きていけるのは、物語の力なのか。
または、人間の、キクイムシ以上のしたたかさのせいなのか。