人間だって空を飛べる

人間だって空を飛べる ~アメリカ黒人民話集~ (福音館文庫)人間だって空を飛べる ~アメリカ黒人民話集~
ヴァージニア・ハミルトン 語り・編
金関寿夫 訳
福音館文庫


奴隷船に乗せられて、アフリカからアメリカに連れてこられた人々は、鎖で繋がれ家畜のように売買され、すべての自由を奪われました。
それでも、彼らの心までは、売り飛ばすことはできなかったし、鎖で縛ることもできなかった、ということなのでしょうか。
彼らのあいだに語り伝えられた膨大な民話のなかの一部、24話を、ハミルトン(逃亡奴隷を母方の祖父に持つ)が語ります。
読み書きを禁じられた彼らの民話はすべて口承文学です。
ハミルトンの『原書あとがき』も素晴らしかったです。


アフリカからもたらされた物語もあれば、奴隷である身の恐れ、希望、はかない光を歌った物語もあります。
皮肉な物語も教訓的な物語もあります。
どれもおもしろいのですが、いつでもどこか、悲しいような気持ちが残ります。


表題作『人間だって空を飛べる』がいちばん心に残ります。
この短い物語の中に奴隷の身分の人たちのとてもたくさんの思いが凝縮されているような気がするからです。
そして、そういいながら、このわたしになにがわかるという
のか、とも思ってしまいます。
空を飛ぶ人たち。飛ビ立った人たちと残った人たちがいる。でも残った人たちの悲しみや絶望はほとんど感じませんでした。
感じるのは、自分たちの出自の誇りでしょうか。
そして、自由への憧れでしょうか。
白人たちへの怒りでしょうか。
蔑みでしょうか。
いつか訪れると信じられる希望でしょうか。


『オオカミと娘っこ』も好きです。赤頭巾の類話かな、と思うのですが、これはかなりスリリング。
最後はどきどきしました。
不思議な呪文のような歌は、彼らの国の言葉だそうですが、もはや誰もその意味を知らないのだそうです。


ハミルトンの『原書あとがき』の言葉。
「・・・忘れないでほしいことは、世の全ての民話と同じく、これらの物語も、わたしたちアメリカ人全体に属するものだということです。
つまり、すでにアメリカの伝統の一部、わたしたちの国の歴史の一部になっているということです。」
そして、同時にわたしたち世界じゅうの人間たちの共通財産でもあるはずですよね。
この悲しみも憎しみも、希望も・・・どん底のなかで豊かに形を変えつつ語り継がれてきた象徴に満ちた民話が、
こうして、わたしたちの手元に渡されたということは、
確かに『人間だって空を飛べる』ということだと思います。