ぼくが空を飛んだ日

ぼくが空を飛んだ日

ぼくが空を飛んだ日


もし要約するならば・・・
主人公は、11歳の男の子(二人暮らしの母はいつも忙しく、彼は孤独)
いろいろなことに自信が持てなくてじぶんは「落ちこぼれ」だと思っているし、学級のボス的存在のナイカーに虐められている。
老人介護施設と子どもたちの交流プロジェクトで出会った老婦人に頼まれたこと(やりたくなかったが、断れなかった)がきっかけとなり、
彼女との交流により、大きく成長する。
身も蓋もない書き方をしました^^


・・・これだけならよくあるパターンだと思います。語ってもネタばれでもなんでもない、と思います。最初の数ページであらすじは読めます。
でも!
でもね、違うんですよ。あらすじなんか書いたってなんにもならないんですよ。そういうことじゃないんです。
宝物みたいな本だったのです。


ロバートや周りの人々にリアリティがあり、感情移入しやすかった、ということもあるし、
チャンス荘といういわくありげな廃屋の冒険も不気味でわくわくしたし、
でも、何よりも、はっと惹きつけられたのは「あなたのような男の子は空だって飛べる」


キイワードは「飛ぶ」。
それは、たぶん、こういうことでしょう。
自信をとりもどす、願いをかなえる、健康をとりもどす、だれかとだれかをつなぎとめる、
そして、何よりも、幸せになること。
・・・それは願いというよりも祈りのようなものでした。


「沈黙の王子と火の鳥」というお伽噺が象徴的な意味を持ちながら、物語のなかで語られます。
言葉を失って沈黙する王子は、
ロバートであり、エディスであり、アルバートであり、・・・もしかしたらいじめっ子ナイカー(実はロバートとナイカーは似ている)かもしれない。
彼らはみな自分のための羽のコートが欲しかったのだろうと思います。失った言葉を取り戻すために。
この本に出てくるのはたったひとつの羽のコートです。
でも、その一つのコートは、彼らみんなにとって大切なものでした。


ロバートの願いが叶うとき、彼は飛びます。
飛ぶ、という言葉は比喩のようですが、ある意味、比喩なんかじゃない。
本当に飛んだのだと思います。
そして、飛んだ彼は(自分が飛べることがわかったから)ほかの人を飛ばせることもできたのだ、と思います。


空を飛ぶ場面が出てくるわけではありません。
でもわたしには見えるのです。
鳥の羽をつけた少年がいとも軽やかに月の夜空に舞い上がる姿が。
そして、目をこらせば、彼のまわりにいる人々が。だれもが沁み入るような笑顔で。