『フォグ 霧の色をしたオオカミ』 マルタ・パラッツェージ

 

1880年のロンドン。
ストリートチルドレンのクレイは、仲間と三人でテムズ川底の泥の中から「戦利品」を収穫して少しばかりのお金に替えて暮していた。


あるとき、町にサーカスがやってくる。サーカスの売り物は「最後の一匹」とうたわれる野生のオオカミだ。
一目オオカミに会いたいと、サーカスのテントに忍び込んだクレイは、そこで、酷い扱いを受ける霧の色をしたオオカミに出会う。
調教師親子によるあまりに酷い虐待は、それでもサーカス興業主の冷酷さよりはまだましなくらいだ。
誇り高く決して人になびこうとしないオオカミにクレイは魅せられる。彼はオオカミをフォグ(霧)と呼び、自分の命に替えても逃がそうと誓う。そして、生まれ故郷に帰すのだ。


サーカスの檻からオオカミを逃がす。それだけを取り上げればなんという無謀なことと思う。
クレイは13歳。力もないし、天涯孤独の身で、後ろ盾もない。いったいどうやってオオカミを逃がすというのか。
逃がすことができたとしても、その後どうするつもりなのか。
さまざまな困難のなかで、もっとも厳しいのは、クレイはオオカミの味方のつもりでいるのに、オオカミはそう思っていないことだろうか。


最後のページは見開きの大きな挿絵で、じつは読む前についこの絵をみてしまった。だから、物語がどこに向かっているのか、ある程度予測はついてしまったのだけれど……。それでもその間の何度もの山場にハラハラした。
そして、クレイが、なぜオオカミにこれほど肩入れするのかも、だんだんわかってくる。
人に養ってもらうことも盗みを働くことも拒否して、子どもながらに一人で生きていこうとする少年は、孤高のオオカミそのものではないか。


オオカミは賢い。美しい。本を読みながら何度も思った。
オオカミの傍らにいようとする少年に、(敬意をもって)一定の距離をとることを要求するオオカミは流浪の身の王のようだった。