『きょうは、おおかみ』 キョウ・マクレア/イザベル・アーセノー

きょうは、おおかみ

きょうは、おおかみ

  • 作者: キョウ・マクレア,イザベル・アーセノー,小島明子
  • 出版社/メーカー: きじとら出版
  • 発売日: 2015/03/13
  • メディア: 大型本
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子どもでも大人でも、自分を消しさって、きっとオオカミになってしまうときはある。
オオカミになったまま、ベッドから出られないときもある。
妹のことを心配して、いろいろと甲斐甲斐しい姉のバネッサが素敵だ。(親ではきっと無理。おねえちゃんじゃなきゃ。)
最後に、バージニアが空をとんで行きたい場所「ブルームズベリー」の絵を、バネッサが壁に描いていく・・・
おそろしい(でもとても悲し気な)オオカミは、ページを追うごとに愛らしいオオカミの子どもに変わっていく。
バージニアとバネッサがあそぶブルームズベリーは、どんどん豊かに美しくなっていく。


読み終えて表紙を見返して、『きょうは、おおかみ』というタイトルの上に『Virginia Wolf』とあるのに気がついた。これが原題?
密林に見に行って「出版社からのコメント」に「ヴァージニア・ウルフへのオマージュ」と書かれているのを見て「そうだったのか」と今更ながらにびっくり。「金原瑞人氏推薦のことば」で「Woolfのoが抜けてオオカミになっちゃった」との一文をみつけ、くすくす。
Wikipedeiaで、ヴァージニア・ウルフには、本当にバネッサという姉がいたことも、トービーという名の男兄弟がいたことも確認した。


そう言えば、読んでいる時、不思議だなあ、と思ったのだ。
子どものバネッサが妹の絵を描いているところがあるのだけれど、その絵は、どうみても大人の女性だったのだから。(作家バージニア・ウルフの肖像だったのか!!)
そうして、最後にバネッサが描くブルームズベリーの絵にも同じ不思議があることに気づく。
絵本のなかで、二人の少女は「絵」と「おはなし」で魔法をかけた。
朝になってみると、魔法はとけてしまうのかもしれないけれど、一度かかるとずっととけない魔法もあるのだ。
魔法は、つまり、想像力か何かなんだろうけれど、豊かさや不思議の持続性を思えば、やはり魔法といいたくなる。
優れた絵本たちと子どもたちが出会ったとき、きっとこういう魔法が、あちらこちらで始まっているのだろう。


この絵本の隅から隅まで良く見たけれど、どこにもヴァージニア・ウルフへのオマージュだなんて書いてない。それが素敵だ。かくれんぼみたい。
いつか、子どもが大人になった時、子どもの頃の魔法の源泉を訪ねようとするかもしれない。
その時、嘗ての子どもたちは、思いがけず絵本からプレゼントをもらうのかもしれない。